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ごまの「アニメ批評日記」

『ガンパレードマーチ』第7話〜第12話

_2003.07.24 第7話「長い夜 In The Forests Of Nights」

神頼み瀬戸口の絵

他の部隊の救援に向かった速水・芝村機が戦場で大破し、幻獣に取り囲まれる絶体絶命の状況からの脱出、という話。(→公式のあらすじ

窮地からの脱出劇というのはエンタテインメントとしてよくあるものですが、
危機感を煽って盛り上げるのではなく、淡々と描いていたのが印象的。
速水の物怖じしないマイペースな性格や雪降る冬の夜という舞台を生かして作られた
ストーリー全体の雰囲気が独特で面白いです。

芝村をわざと眠らせるという大胆な行動に出た速水が、
幻獣の群の中を平常心によって「強行突破」する、というのは秀逸なアイデア。
怒りや憎しみを抑えることのできない芝村、平常心を貫いた速水、
それぞれの性格設定やこれまでの話における描写を十二分に生かした展開でした。

速水の幻獣突破シーンが「もはや汝らは終わりだ…」の台詞で始まるのは、
平常心による「強行突破」という真相を一見分かりにくくするためのもの。
最初は何かの呪文かのように受け手に思わせておいて、
二度目(マスクを調達したところ)は、いかにも童話風の台詞、
そしてダム集中管理室での芝村との会話で真相が明かされるという、
三段階での描写は分かってみると唸らせる演出でした。
気になったのは、二度目の台詞が聞き取りにくく何を言ってるのか分かりにくかったこと。
こうなると受け手の心理としては「一度目の台詞と同じ」と判断して思考を打ち切ってしまい、
この演出意図とずれてしまう気がしました。

仲間(芝村)を助けたいという意思から普段以上の行動力を見せる速水と負傷した芝村、
という状況設定から立場が逆転していく二人のやりとりも見所。
自分のことを「お荷物」と言って速水に叱られたり、
「全て任せる」「すまん」「ありがとう」と、速水に対する芝村の感情が変化していくところが面白いです。
ただ芝村だけ負傷するところの説得力が感じられないのが今ひとつ。
HWT大破シーンを回想ではなくリアルタイムとして描いた方が、
本編よりまだ説得力が出たのではないでしょうか。

芝村と速水が二人きりで過ごす今回の展開に合わせるように明かされた、
「写真立ての男」が芝村の上級生で「一方的に尊敬している」という真相は、
お嬢様と思われていた(実際その通りだった)芝村が戦場に出て戦うという
不自然な行動の理由づけを説明するための意図のようですが、
ここは「死んだのは彼氏」の方がより分かりやすかったと思います。
何故、敢えて「尊敬する存在」を選択したのか考えると、
これまで芝村が他者への接近を阻んでいた壁を取っ払い、
「単なる上級生だったから今後芝村は速水に恋してもいい」
と受け手に思わせるご都合主義的演出が伺えてしまうのが頂けませんでした。

ののみのカセットテープ、ダムの集中管理室という要素が、
速水達の居場所を知らせるためにダムの警報用スピーカーから流れる、
という展開のためだったのは上手い仕掛けだと思いました。

再出動中、滝川が食堂で委員長を殴ったことの謝罪を取り消すところは、
熱血漢なキャラクターを生かして、それ自体が笑えるシーンになっているのと同時に、
速水・芝村救出へ向かうことでの「希望の光が指す」といった雰囲気を醸し出していたのが好印象。
女子寮の談話室(?)で安否を気づかって暗くなる一同に対して、
「いいかげんにしとき」と一喝した加藤のソファーにしがみついている様子が、
自分も心配でたまらないという、さり気ない表現になっていたのも良かったです。

脚本:高山文彦 絵コンテ:山本秀世 演出:中澤純一郎 作画監督:小澤郁

*2003.09.01 第8話「四月になれば彼女は With Your Masket,Fife,And Drum 」

ブルジョア遠坂圭吾

入学早々、速水に愛の告白をして猛アタックをかける新入生が現れる、という話。(→公式のあらすじ

見どころ一杯で大満足の一本。
シリーズにおける位置づけを考えると、
速水と芝村の恋愛話を新入生を絡めたラブコメディ仕立てに膨らませたものですが、
終始笑いっぱなしで楽しめる話になっているのはもちろん、
ラブコメディ進行の随所にさり気なく現れる速水・芝村の描写が、
青春の一風景のなかに垣間見える「強くなっていく恋愛感情」という表現になっていて良かったです。

なかでも、速水・芝村両者の恋愛感情を仕草や表情、ちょっとした台詞で示していき、
モノローグなど直接的な言葉を一切使わなかったのが見事。
こうすることで「そんなことだから目がはなせん(芝村)」という、
ついうっかり言ってしまった事実上の「告白」の場面に、
状況的にも話の盛り上がりとしても上手く生きたと思います。

また、それぞれの恋愛感情の表現も微妙なさじ加減で絶妙に描かれていて素晴らしい。
ラブレターの存在がクラス中に知れわたる瞬間の芝村は、
速水がラブレターをもらったという事を気にしてる→そんな自分に気づく→興味ないふり
という表現に。

ラブレターを取り合うシーンでは、速水が芝村をチラッと気にている様子が挿入されていますが、
「いい加減にしてよ!」という速水に対する、滝川の「なに逆ギレしてんだよ」の台詞も注目。
表面上は速水をからかった滝川の開き直りというちょっとしたコメディ演出ですが、
速水にとっては芝村を気にするあまり叫んでしまった事への図星を突かれている構図になっています。

加藤と森が会話する洗濯場での一幕では、
「『(速水が好きな人は)芝村か?』って言われたときも顔真っ赤にして(加藤)」の後、
加藤と森が芝村の方を見る→芝村がそれに気づく→「馬鹿言え!(芝村)」として、
その時本を読んでいたはずの芝村が二人の会話に耳を傾けていたことを表現し、
「動揺した芝村の二度洗い洗濯」というオチにつなげています。

体育用具室の速水と芝村の会話で、新井木と休日デートをしたはずの速水に対して、
芝村が自ら話を切りだし「(すっぽかしたのは)何故だ?」「どこで何をしていた?」と言うのは、過去の話を生かした演出。
プライベートへの踏み込みを過剰に嫌っていた芝村自身にその愚を犯させることで、
芝村の心境がおだやかではないことを強調しています。

また、この時の芝村役・岡村明美の演技も絶妙。速水の方を見ていない映像と合わせ、
本人は自然な会話に見せかけてようとしつつも尋問以外の何物でもない、
という雰囲気が良くでていました(そして鈍い速水はそれでも気づかない)。
直後、素に戻ってついうっかり「告白」との演じ分けも良かったです。

新井木勇美のキャラ設定も上手い。
速水にフラれるという受け手が予想する展開や勘違いというオチにつなげる為の
「活発な普通の女の子」というキャラ設定ですが、
速水が一旦デートの誘いを断る一幕では、
「他に好きな人がいるんですか」と、どんどん先回りしてまくしたてることで、
速水に具体的なことを言わせないという演出意図にもこの設定が生かされていました。

元気のない芝村が食事を残して食堂から出るのと入れ替わりに新井木が入ってくるシーンは、
芝村と新井木のライバル関係を示唆しつつシリアスとコメディが交差する展開になっていますが、
芝村と新井木のどちらの行動もステロタイプでわざとらしさがあるところを、
互いに打ち消し合う効果がでていたと思います。

気絶後速水に抱きかかえられたと知った田辺が「耳まで真っ赤にして」という加藤の台詞は、
田辺の耳が隠れていることを踏まえたさり気ないボケ。
「告白」の直後の一連のシーン。
猛アタックをかける新井木、アタックを受ける速水の様子がフラッシュバックで表現、
とここまではごくありきたりなものですが、
最後にプレゼントが「ドーン」と来て、ラブレターの取り合いを使い回した映像でオチがつけられていたのがちょっとした工夫でした。
新井木が速水の打球を受けて気絶するところも、
田辺のシーンの使い回しにすることでの面白さを出すとと同時に、新井木のしたたかさも演出しています。

用具室で高まる速水・芝村の感情に水がさされたことをライン引きの線で示したことや、
新井木が気絶したときのひきつった芝村の表情などは外連味が過ぎて却って興ざめでした。

映像的にも動いているところと止め絵のメリハリが利いていて、
終始、展開が止まることなく進んでいた印象を受けました。
コメディの面白さもあって、何度見ても楽しめる一本。

脚本:水上清資 絵コンテ:木村真一郎 演出:筑紫大介 作画監督:中西修史

*2003.09.12 第9話「君にこそ心ときめく A Day In The Life 」

面白すぎる速水厚志

互いを意識しあってる速水と芝村の仲が進展するか、しないか、という話。(→公式のあらすじ

5121部隊の全員を巻き込んで進行するラブコメが楽しく見られる一本。
一見すると普通のラブコメ話に見えるのですが、よく見ると随所に細かい演出がなされています。
これは動きのつけにくい芝村のキャラクターを不自然に見せないためですが、非常に苦心して作っている印象を受けます。

まず善行と原が、それぞれ男性・女性隊員をリポートする形で進行する立ち上がりは、
外連味はあるものの、ここまでプロフィール紹介がなかったことを生かした演出。
ここでは森の入隊時のエピソードでの「人付き合いは苦手?」という原の台詞に注目。
後半の芝村に対して「素直になりなさい」という重要な台詞が出てきますが、
演出的には割とステロタイプなこの台詞が、ここで強調される原の洞察力によってグッと引き立っています。

瀬戸口に「場数を踏め」とアドバイスを受けた速水がとんちんかんな行動を見せるところ。
男の滝川に対してシミュレーションしてみるというコメディ描写を見せるのですが、
ここでは最初にネタばらしをせず、どこかで受け手に気づかせるという演出が見事。
花壇に水撒きをする速水、それを遠くで眺める芝村というシーンを、善行のリポートの中に前振りしておいて、
「僕の趣味はガーデニングなんだ」と速水・芝村に関する行動であることを暗喩。
芝村の部屋が見えるようにカーテンを開けてあるカットが挿入してあるのもさり気ない要素。
もちろん勘が良ければ部屋に入ってきた様子ですぐに分かるのですが、
分かっても分からなくても受け手は面白さを得られるという構図になっています。
またここでは、使いっぱしりのジャンケン勝敗表を受け手の目にさり気なく焼き付け、
最後に速水が芝村とののみと偶然出会うことの伏線をはっています。

速水と芝村が、それぞれ善行と原のアドバイスを受けて言葉を交わすシーン。
善行と原の意見の食い違いが反映された形の「失敗」というオチは、
冒頭からのリポート形式、そこからの善行と原のちょっとした対立という展開を生かしたモノで面白いです。
ただ、ここでは芝村の勘違いという説明が少し弱かったのが画竜点睛を欠いたように思います。
即ち、このシーンは意見の違う善行と原が同時にアドバイスしたために起きた悲劇なわけですが、
最初に芝村が顔を赤らめて「ここでか?(愛の告白をするのか)」という勘違いを見せてしまったために、
「原がアドバイスしなければそんな風にはならなかった」とは思えず、
善行のアドバイスが的はずれであるという印象が際立ってしまいました。
「僕たちのことなんだけど(速水)」の台詞の後の「素直になりなさい(原)」の回想が、
芝村が速水の姿を目にする一瞬手前あたりに挿入されていれば良かったのではないかと思います。

このシーンの後は、
「恋のラブラブ大予想」で盛り上がる談話室の女性陣と、ののみを挟んで仲良く三人で帰寮する速水と芝村という展開。
「お菓子一ヶ月分の賭け」「田辺の当たらない予想」といった過去の話の要素を生かしているのが好印象。
また、速水と芝村が仲がはっきりしないと、複座機をバックアップする女性陣に迷惑
という速水と芝村の話題で盛り上がる理由付けがなされているのも上手いです。
最後は田辺の予想を聞いてニコリとした原の表情に、仲良く帰寮する三人を挟み、
最後の最後に原や田辺の予想が画面に映され今後の明るい展望を示唆するというもの。
話が美しくまとめられていたと思います。

脚本:新宅純一 絵コンテ:桜美かつし 演出:長尾粛 作画監督:片岡英之・阿部由美子

*2003.09.25 第10話「悲しみよこんにちは Once Upon A Dime 」

田辺の財布の絵

尚敬高校の文化祭で5121部隊が舞台劇を行う、という話。(→公式のあらすじ

この作品のすごいところは、一見無関係な各話のエピソードに前後のつながりをきちんともたせていること。
今回は速水と芝村 互いの感情の変化を、文化祭というエピソードにおいて垣間見せるというのがシリーズ上における位置づけであり、
田辺が主役となって進行する今回の本筋は、その為に作られたいわばオマケ。

しかし、そのオマケの本筋をするにあたり、
好きなおかずを落としてしまうことや、おみくじの大吉を見たことがないといった、
前話までの田辺の不運なキャラクターの伏線的描写が生かされています。

また、田辺と芝村が互いの気になる男(?)について会話を交わすシリーズ上の重要なシーンは、
前々回のラストにあった賭けを受けてのもので、
この芝村との会話のために「田辺は遠坂を好き」という設定になっているわけですが、
前回の善行と原による隊員紹介のところで田辺と遠坂が対になるような紹介のされ方をしており、
なんとなく二人を意識させてしまうことで突如表れる恋愛ネタの唐突さを緩和する仕掛けです。
更にこの隊員紹介を経たことで今回出番が多くなる遠坂・来須・若宮のキャラを違和感なく見せる効果にもなっていました。

シリーズ上としての見どころとしては、
速水・芝村の描写の他に舞台劇の物語の扱いが挙げられます。
本作は幻獣と人間が戦ってるという状況を俯瞰して詳しく説明するということはせず、
防戦に務める5121部隊側の心理を徹底して描くことで作品として成立させていますが、
今回においては文化祭に登場する舞台劇を、だまし絵のように描かれる出撃シーンとリンクさせることで、
劇中の物語が本作の世界観を暗喩するという構造をとっています。
映像的にも幻獣との戦闘と劇中の戦闘がだまし絵になっていたり、
PBE起動役と劇中の妖精役でののみが似た役回りを演じるなど、見事な演出という他ありません。

こうした演出のなかにあって時間的にはわずかであった、
速水・芝村の描写や二人のやりとりにも存在感がきっちり出せていたのが良かったです。
特に芝居の稽古中の芝村を前にした速水や、田辺に速水のことを指摘された芝村の狼狽ぶりは、
声が裏返っている演技が絶妙で楽しめるシーンになっていました。

脚本:高山文彦 絵コンテ:山本秀世 演出:水無月弥生 作画監督:石井ゆみこ・増谷三郎

2004.01.15

「ガンパレードマーチ」第11話「言い出しかねて」

全話の評価 ★★★★★ 公式のあらすじ

両思いなのに進展しない仲をとりもつ為に5121部隊の面々が講じた策である、クリスマスパーティの買い出しに速水・芝村が出かける、という話。
買い物を続けていくうち変化していく芝村の心境が見どころ。
冒頭では既にバレバレの女子達の冷めた視線を浴びても、自分の速水に対する気持ちを認めようとしなかったものが、
買い出しを疑似デートとして楽しみ、最後には速水の告白を受け入れるような態度まで変化していく様子が描かれています。

この演出のポイントのひとつは、芝村が策に感づくまでの描写。
洋服店の前では指示書に書かれていた「コーディネート」という文字を懐疑的に復唱、
続く周囲を見渡す様子に何か不審なものを感じていることを示します。
そして店内での試着中での気絶して騒ぎを起こした田辺の発見や、
次の宝石店という展開と、そこでの加藤の発見によって感づき、
ふっきれたかのように、面々に指示された買い出しという事の成り行きを楽しむ、
という心境の変化として上手く順序立てしていました。

洋服店で田辺が芝村に見つかる展開として、
これまでの話数で描いた田辺の貧乏ぶりをきっかけに遠坂を引っ張りだし、
憧れの遠坂と密着する緊張感によって気絶させるというのも上手いつなげ方でした。

また一連の展開のなかで芝村の心情を他のキャラに代弁させているのも、
映像的に楽しめる上に、寡黙な芝村のキャラ設定を損ねない上手い工夫。
宝石店では原の「後は成り行きでどうとでもなるわ」の台詞に呼応するかのように、
策に感づきつつ疑似デートを積極的に楽しもうとしている姿が描かれてます。
戻ってクリスマスパーティの会議のシーンでは、
芳野先生が語る「クリスマスの思い出」の中の「前の日からドキドキしてね。着ていく服を悩んだり…」 の台詞を自室で衣装を選ぶ芝村に被せることで状況説明しています。
この一幕では「『どうしよう』って友達と相談したり」の台詞を猫と目が合う速水に被せていて、
直前の芝村にカットと合わせるとちょっとした笑いのポイントとなっています。

高級レストランに行く直前の「次は?(芝村)」「これで最後だよ(速水)」「そうか…(芝村)」
歩道橋での会話もちょっとしたようで重要なシーン。
芝村のちょっと残念そうな台詞がレストランでの「楽しかった。今日は楽しかった」で始まる芝村の告白へと、
受け手が感じる芝村への心理状態を自然につなげていました。

全体的な流れとしては、
積極的に買い物を楽しむところからレストランでの告白まで、せっかく速水が告白できる状況を芝村が作ったにも関わらず、
速水の余計な一言が台無しにしてしまい最終回に続くというものでしたが、
前半終了直前での街頭インタビューでの「大切なパートナーだ」という芝村の台詞を
種明かしのようにラストにもってきたのも唸らせる演出。
冒頭の「仕事上のパートナー」という同じテレビ局の番組収録での台詞と
対比させることで芝村の気持ちを表現していて良かったです。

その他、噴水前のベンチで、占いに書かれていた「30分以内の告白」を気にしつつの、
告白しようとする速水とそれを待ち受ける芝村という描写も面白かったです。

脚本:水上清資 絵コンテ・演出・作画監督:入江秦浩

更新:2004-01-18 作成:2003-09-16 文責:ごま(goma)
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