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ごまの「アニメ批評日記」

『ガンパレードマーチ』 第2話〜第6話

2003.06.21 第2話「勝手にしやがれ Going My Way」

前回の実戦で速水と壬生屋の窮地を救った芝村舞が、転校生として5121部隊にやってきた、という話。
作品開始早々、5121部隊初の実戦という展開によって受け手にインパクトを与えた第1話を受け、
主人公速水とヒロイン(?)芝村舞が置かれている環境のみを終始描く、
世界観から主人公周辺、又は「動」から「静」という流れで受け手の興味を引きつつ進む、
作品としてはまずまずの立ち上がりでした。

今回何といっても特筆すべきは、センス良く練り込まれていた台詞群。
主人公をはじめとする5121部隊それぞれの人物描写、人物同志の関係図、生活環境など、
今回は物語を構成する多数の設定要素を主にキャラクターの会話で描いていたのですが、
説明的な台詞が一切なく、どれもが日常描写という流れの中で自然に描かれていたのが秀逸。

なかでも、「子供には関係ないの(瀬戸口→速水)」
「いつでもお姉さんの胸に飛び込んでらっしゃい(原→速水)」「コウロウシャ(ののみ→芝村)」など、
5121部隊が幅広い年齢層によって構成される混成部隊であることから、
キャラクターの年齢の上下をさり気なく受け手に意識させる台詞が印象的でした。

駄菓子屋のお婆さんと速水の会話での、
「怪獣ばやっつけてくれたけ、今年のお盆はちゃんと迎えられるごたあ」というのも、
第1話の内容とあわせて世界観を受け手にイメージさせる絶妙な台詞。
バックの幻獣情報を伝えるテレビ番組の音声もこの台詞に効果を与えています。

また「買い出し当番を決めるジャンケン」「洗面所の一幕」「食堂にあるののみ用の踏み台」
「水を混ぜてシャンプーを最後まで使い切る田辺」などなど
日常描写における生活感が上手く表せていました。

瀬戸口が転入したての芝村をしつこくナンパする際の演出も見どころ。
教室でのナンパシーンでは、「僕はね、君の力になりたいんだ(瀬戸口)」から
会話を盗聴しながらの「あ、私もこれ言われた(森)」という感想に偶然被せるように
「誰にでも言ってるわけじゃないよ(瀬戸口)」が続くところが、
盗聴の事実を知らずに話しているリアルさと、
台詞自体の矛盾によるコメディの両方を演出していて上手いと思いました。

このナンパシーンで流れるBGMにも注目。
クラシックの厳かな曲調はシーンの内容と微妙にズレていて、
それ自体がそこはかとなく面白さを醸し出しているのに加え、
盗聴していた者達の横やりによって中断したBGMが盗聴器の発見したところから再開するのが、
瀬戸口が平静を保とうとするコメディ演出になっていました。

あと芝村の部屋に来たときの加藤のノックの仕方は加藤明るい性格を、
前回の実戦のお礼を促す速水に対して、
「あんなこと(模擬訓練中パートナーを攻撃)をした人に頭を下げるなんて」
という壬生屋の台詞には潔癖な性格を、
それぞれ表現できていたと思います。

今回、主人公の速水以外のキャラ描写が多数ありましたが、
速水が全般にまんべんなく登場させたり、
速水が存在しないところでは他のキャラクターに速水のことを語らせて印象づけることで、
主人公としての存在感が薄くならなかったのは上手い構成でした。
先にも触れたとおり、それらの描写にわざとらしさがないのも良いです。

気になったのは芝村が美人であるということの描写。
歩道橋で速水が思わず振り返ったり、瀬戸口がノートに「うつくしい」と書いたりと、
本作においては芝村がハッとする美人であるように描くつもりのようですが、
本作に登場する女性キャラは美少女揃いのため、芝村が特筆ものの美人というような印象を受けず、
キャラデザインとキャラ設定に違和感を感じます。

台詞でひとつ気になったのは、ののみの「コウロウシャ」という台詞。
意味が分からずおうむ返しした芝村の台詞に対して、
言葉を棒読みしている感じがあまり出ていなかったように思います。

脚本:新宅純一 絵コンテ:別所誠人 演出:高島大輔 作画監督:小澤郁

2003.06.27 第3話「サマータイムブルース Fire Works」

速水達が花火大会の夜にひとりの同期生を失った一年前の初陣を思い出す、という話。(→公式のあらすじ

前回と同じく日常描写が中心でしたが、今回は世界観の表現に重きを置いている模様。
兵役によって命を危険にさらし続ける、一見平和な日常もその一歩手前でしかない過酷な状況を、
回想シーンを使って、彼らにとっての日常生活での一幕として描いていたのが工夫でした。

また日常描写そのものにおいては、
「学生徴兵法」「兵役拒否による別のお務め(徴用)は20年」「選抜学生」「ガソリン車だぜ!(驚く)」など、
受け手の心に世界観を構築させる要素が散りばめてあったのも好印象。

こういう作品独特の用語が出てくる時は、説明的な感がどうしても否めないのですが、
本作においては生活描写をきっちり積み重ねているので、
説明的なわざとらしさがかなり軽減されていたと思います。
特にテレビのワイドショー番組や提供のアイキャッチを随所に埋め込んであるのが絶妙。

映像では、男子寮の部屋でくつろいでいるシーンの滝川の髪の揺れ方が、
まだ見えていない扇風機の首振りを上手く表現していて面白かったです。

今回、気になったところが二点。
まず「実家は(どこ)?」と速水に尋ねられた芝村が「お前に何の関係がある!」と激高するところ。
第2話にあったお礼とお詫びを言う速水に叱りつける芝村の描写に歩調を合わせたつもりなのでしょうが、
本編における速水の質問は会話の流れで沿ったものであり、
激高までさせてしまうのは芝村が単なる癇癪持ちに見えてしまいます。
叫ぶのではなく冷たく突き放す方が厳しい性格を表現できたと思います。

もうひとつは田辺の「アンラッキー少女」という描写。
歯ブラシが折れたり、食事が好物の度に転んでしまうというのは現実的にありえない現象。
いかにも漫画チックなデフォルメ演出で、
せっかくリアルな描写を積み上げてきているところへのそれは、
本作の格調を下げてしまっていて勿体ないと思いました。
どうしても必要なら「好物の時は転びそうになるので、周りの人間がフォローしてあげて食事が無事」
という描写の方が本編よりは良くなると思います。

脚本:水上清資 絵コンテ:山本秀世 演出:水無月弥生 作画監督:枡田邦彰

2003.07.02 第4話「二人でお茶を−Duelist−」

5121部隊に複座型のHWTが一機導入され、速水厚志と芝村舞がパイロットに選ばれる、という話。(→公式のあらすじ

主人公速水とヒロイン芝村とのやりとりを本格的に描きはじめていて、
いよいよ話が動きはじめたといったところ。先の展開をおおいに期待させます。
今回はまだその導入部という感じでしかありませんでしたが、
各シーンに細かい演出がなされていて退屈させずに楽しませる作りになっています。

複座機のパイロットに決まり「がんばろうね」と言う速水と対照的に、
含みのある表情を見せ、写真立てに目をやるカットに続く芝村の描写は、
一年前死んだと思われる彼氏(?)と同乗することを考えていたということを
今後示すための伏線でしょうか。
真相はどうあれ意味ありげなカットを自然に入れていて、受け手を引きつけさせます。

速水が教官室で複座型パイロット選任を辞退しようとするシーンでは、
なかなか話を切り出せず、ののみがそのきっかけを作った形になったところや、
坂上教官の説得に丸め込まれてしまうところなど、
速水の優柔不断なところがよく表現されていました。

速水が特訓する姿を遠くで見ている芝村の姿という描写は、
速水の努力を見て芝村も人付き合いの下手さを直そうとするという表現。
芝村が本を借りてくる次の展開への上手いつなぎでした。

図書館で本命である「人間関係のABC」と一緒にダミーらしき本を同時に借りていたり、
貸し出し申請の際に横をむいて照れるところは、芝村の不器用な性格がよく出ています。
またこの時の構図は返却するときと同じにしてあり、
返却するときは照れが無くなっているということを強調する伏線になっています。

本編二度目のシミュレーション失敗の後、
速水と激しく本音をぶつけあった直前のシーンを経た芝村が、
速水に対する人間関係の考え方になんらかの変化があったことを
ワンカットで表現できていて上手いと思いました。
ただバストアップとアップで微妙に表情が違うため、
その感情がいかなるものか捕らえにくかったのは残念なところ。

あと、速水と芝村の口論をBGMで省略してしまったのはいただけませんでした。
言い争うネタが無いか思いつかなかったということなのでしょうが、
同じ事の繰り返しにしてでもキッチリ台詞のやりとりを描くべきでした。

坂上教官と善行による複座機パイロットを選ぶ話し合うところでは、
5121部隊の成績と評価がコンパクトにまとめられていて、
キャラクターの理解や思い入れを深める効果がありました。
また成績表にグラフをわざわざ二種類入れて、
平均点ばかりの「絵に描いたような普通さ」という速水の成績を
コメディっぽく強調しオチをつけいたのは面白かったです。

冒頭の原と森による複座機運搬中の一幕は、
複座機を搬入するという設定からの「作り手のお遊び」という感じですが、
「夏休みもロクになかった」「服装規定」「軍の検閲」といった、
世界観を補完する言葉を入れてあったり、
「車好きというよりメカ好きかな」という原のキャラ描写もしてあるのが好印象。

ナンパ失敗という話自体もオチは最初から見えてましたが、
ナンパ野郎視点での構図でスケベ心を表現していたり、
搬送用の巨大トラックと同時にメインテーマがBGMとしてかかるなど、
コメディとしてもしっかりできていました。

脚本:新宅純一 絵コンテ:桜美かつし 演出:長尾粛 作画監督:入江泰浩、寺沢仲介

2003.07.07 第5話「枯葉 Thursday's Child」

尚敬高校の文化祭のため5121部隊は人形劇を出すことになるが、肝心の当日に出撃がかかってしまう、という話。(→公式のあらすじ

「死」そのものに必要な演出が欠落している最近のアニメ

物語において「死」はひとつの演出要素ですが、アニメにおいても珍しいものではありません。
自己犠牲の精神、残されたものの悲しみや苦しみ、死を乗り越えての成長など、
物語のなかの演出として「死」が用いられます。

他方、キャラクターを殺すというのは演出手法としては比較的容易であるため、
その際には事前に「死」への伏線を張ったり当該キャラにスポットを当てるなどして
「ご都合主義」と言われないよう話をきちんと組み立てるのが様式化しています。

しかし最近のそういう演出を見ていると、
様式化によるご都合主義回避にばかり思考がいっていて、
それが却ってご都合主義な感を醸し出しています。
何故なら肝心の「死」そのものに必要な演出が欠落しているからです。
それは殺されることの残酷さであり、それに対する痛みであり恐怖であるということです。

死の残酷さ痛々しさを受け手に直接伝える演出

今回の本作はそのような現状に対するアンチテーゼともいえる作りでした。
壬生屋の死がメインとして描かれる今回の話。
文化祭の出し物に熱中している生活描写主体の前半では、
壬生屋が死ぬという伏線らしいものはなく、
人形劇を楽しんでいる様子の壬生屋の様子がさり気なく描かれているのみでした。

そして、出動がかかり幻獣に瀕死の重傷を負わされる後半への急展開。
平和な日常風の生活を送りながらも常に死と隣り合わせである速水たちの設定を生かしたものでしたが、
こうすることで、受け手にとって突然訪れる壬生屋の死へと続く重々しい一連の展開を
受け手は身構える間もなく受け入れることになり、
そこでの瀕死の壬生屋の痛々しい様子や、死を目の当たりにした速水たちの苦しみという、
残酷な状況が受け手にひしひしと伝わります。

せっかくの生々しいシーンに現実的に嘘臭い描写が

死ぬ間際に壬生屋が瀬戸口の手を握って何か言うところ(音声なし)は、
瀬戸口のリアクションやその後の待合室での様子、人形劇で肩に瀬戸口の手が触れたときの壬生屋の態度から、
告白めいたことがその内容だと思われますが、
人形劇のところ、即ち同一話である今回に伏線らしきものを入れたのが頂けません。
敢えて入れるなら前回以前でしたし、むしろ本編のように明確にする必要もなかったと思います。
手を握るところだけ描いて受け手に想像させるだけでも十分でした。

戦闘中、滝川が壬生屋の応急処置をするところの説明も中途半端。
いっそのこと説明らしき台詞は省いた方が緊迫感も出せて良かったと思います。
処置を含めた救護中に敵が襲ってこないのも不可解でした。

また手術台の上の壬生屋の姿を美しく描きすぎなのが嘘臭くて残念。
この後の描写も含めて話をきれいにまとめようという作り手の姿勢が伺えますが、
できることなら徹底的に写実的な描写で残酷にまとめて欲しかったです。

他にもBGMが少々あざとかったですし、
ののみが壬生屋の死を「予知」したらしいカットも、
ののみの能力を示すために必要なのかもしれませんが、
せっかくの生々しいシーンに現実的に嘘臭い描写が入って却って興ざめでした。

このように不満な点はいくつもありましたが、
最近のテレビアニメには皆無といっていい、
死の残酷さ痛々しさを受け手に直接伝える演出は見事という他ありません。

脚本:水上清資 絵コンテ:山本秀世 演出:浅見松雄 作画監督:和田崇

_2003.07.15 第6話「君去りし後 I Guess Everything Reminds You Of Something」

部隊の事情により5121部隊の面々のみ期末試験がずれ込んだクリスマス(冬休み)に幻獣が出現する、という話。(→公式のあらすじ

前回同様、リアルな死の描写に受け手の心を引きずり込んで作中のキャラと同様の気持ちにさせる演出が秀逸。
コミカルなトーンで描かれた期末試験、しかも試験が終わってホッと緊張感が解けたかに見える雰囲気から、
ふとした一言から死んでしまった壬生屋のことを思い出して全員暗くなってしまう展開が見事でした。

また単なるコミカル→シリアスの転換ではなく、
壬生屋戦死による戦力不足を暗示する坂上教官と委員長の会話や、
兵員死亡のニュースに対しチャンネルを変えさせる瀬戸口の描写を入れるなど、
前回の重い空気の続きとして違和感がない作りだったのも好印象です。
タンデムで男とツーリングしているドラマに滝川が最初にチャンネルを変える描写も、
ドラマの女の子が長髪であることから壬生屋の死を連想したものと推察できます。

あと心憎いのはBGMにも非常に気を配っているところ。
転換となるところまでBGMが使われているのは、
食堂にて加藤が出題予想を見せるところ、テスト中、森が洗濯機の中に滝川のパンツを発見したところの計3ヶ所。
いずれもコミカルさの表現としては控えめなもので、これとBGM無しにで転換シーンまでつないだことで、
受け手に壬生屋の死後における雰囲気として違和感を感じさせませんでした。

壬生屋の影

テストの答案用紙を数える先生(感じが出ていて「壬生屋の分がない」という描写と分かる)
喫茶店で他の客の「お水下さい」の声に微妙な表情の変化を見せる瀬戸口、
救急車の警報音に敏感に反応してしまう隊員などは、
壬生屋の死をみんなが引きずっている描写として上手く表現できていたと思います。

ただ、この一連のシーンでは芝村が掃除当番の壬生屋の札を外すところが不自然。
1ヶ月は放置しておきながら、このタイミングで外すことには説得力がありませんし、
演出上の意味も感じられませんでした。
もし芝村が他の隊員ほどにショックを感じてないのならもっと早く外すはずですし、
一連のシーン同様にショックを感じているのなら、外そうとして外せないという描写の方が自然だったと思います。

キャラクターの性格を生かしたリアリティ

戦闘シーンで速水・芝村機13部隊の援護に行ってしまうシーン。
速水が何も考えずに助けに行こうと提案するのはこれまで描いたキャラに合っていて納得ですが、
芝村が即同意してしまうことのキャラクターの説明が欠けていました。
思い返せば第1話で速水と壬生屋を助けたりしていますが、この時の状況は不明。
加えて今回撤収命令に芝村・速水が了解した後という明確な状況と、通信途絶後の不明な状況を併せると、
有能であるはずの芝村が同意するのは普通に考えて変です。
ここでは壬生屋か或いは写真立の男などを一瞬入れるなどして、
芝村が「状況を省みず助けに行ってしまう性格」ということの補強が必要だったと思います。

このシーンにおいて速水・芝村機の連れ戻しを主張する瀬戸口・滝川と、
状況を冷静に判断して二人の主張を却下する委員長のやりとりは、
キャラクターの性格を生かしたリアリティのある描写で良かったです。

脚本:新宅純一 絵コンテ:殿勝秀樹 演出:渡辺健一郎 作画監督:沼田誠也

更新:2003-07-27 作成:2003-06-24 文責:ごま(goma)
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