美術館とはいうものの「ジブリ」に特化しているのでそんなに大きくない。
まあ私設美術館だったらこんなもの、というところ。
だがこの美術館、
それにも増してなにやら意図的に小さく見せようというふしが随所に見られる。
まず外観。
地上二階・地下一階の「三階建て」になっているのだが、
地下一階とは建物の地下を掘っているのではなく、
わざわざ地面をくり抜いてから三階建てにしている。
即ち地下一階とは実質的な一階なのである。
ならば普通に三階建てに建てればよさそうなところを敢えてこうしているのは、
小さく見せることで周りの風景になるたけ調和させようとしたものだと思われる。
それから内装。
展示が目的であるからには、
床面積を広く取って展示しやすいようにするのが美術館というものだがここは違う。
わざわざ中央ホールを吹き抜けにしてあり、
もともと大きいとは言えない建物の中でかなりの比重をとっている。
その天井を窓にして採光しているところから考えると、
吹き抜け自体の意味は、
「自然」というものをいつも意識しているジブリ(宮崎駿)のこと、
自然光を取り入れることでそういう意識をもたせる目的だと思う。
中央ホールによって展示スペースが少なくなると、
壁を増やすことでそれを補う必要がでてくる。
そうするとスペースの仕切りが増えて更に中は狭く感じる。
ここで館内をよく見渡してみると、
「小さなくぐり穴」「大人は入れそうもないらせん階段」「意味のない扉」
など様々な「変なもの」が目につく。
そう、上に書いた「展示の必要上、狭くなった館内」は
同時に子供のときに遊んだ「秘密基地」のような演出を同時に行っているのであった。
更には「順路通りに見る」という美術館の「きまり」を無視し、
ある種「宝探し」のような感覚で見て回ることを意図しているとも思われた。
この建物は一見無茶苦茶なつくりで何も考えてないようにも思えるが、
よくよく観察すると、細部に考えが行きわたっていることがわかる。
中央ホールの吹き抜けによって展示スペースが少なくなることを前回書いたが、
展示スペースを分散させていることもまた、
中央ホールによる半ば必然であり、工夫である。
展示スペースの分散は「宝さがし」感覚に効果的であると同時に
客の分散にも効果を発揮する。
それが更には展示品の盗難防止というセキュリティ面でも効果的だと思われる
(一部不安なヶ所もないではないが)。
二階通路がギャラリーとなっていたのが最も象徴的であった。
そして最後にこれらを決定的にするのが入場制限である。
これにより客の集中を回避し一定のセキュリティを確保しつつ、
「宝探し」を存分に楽しめることができた。
唯一「グッズ売場」だけは大混雑だったが、
これもひょっとしたら思惑通りかもしれないと思う。
結論としてはこの美術館は「買い」である。
とかくこの手の美術館はまず「村おこし・町おこし」ありきで、
「一度つくってハイおしまい」というものが少なくないが、
ここは新作の劇場公開の度に新しい展示が期待できる上に、
これまでの豊富な資産を使った企画展示も可能である。
また定期的に更新されるミニシアターも訪れる欲求を高めている。
このような有形無形の配慮で
間違いなく楽しいひとときを過ごせるといえる。
1000円という料金は微妙なところだが、
「ジブリアニメが大好き」という方ならぜひお勧めしたい
この美術館は入場時刻が4回に分けられており、どの時刻に入場しても閉館までいられる。
これを踏まえた具体的なプランニングを考えると、
やはりまず十時、即ち初回入場のチケットを手に入れることをお勧めする。
初回入場が唯一、違う入場回による人とかち合わない時間帯を得られるからである。
そして、十二時に第二回の入場がはじまるが、昼食時でもあるので、
テラスの食堂に人が行くことで全体的に分散できる。
実際に行った感覚では十四時の入場と重なっても特に混雑感は感じなかったが、
ここでは何より「ゆったり感」をもって見て回ることが肝要だと思うので、
空いている時間を選ぶに超したことはない。
見物の頃合いを見てテラスで食事。
食堂&売店ではオーガニックの材料を使った料理が堪能できるが、
種類がそれほどなく、値段もどちらかというと高目なので
予め弁当などの食料を持ち込んでもいい。
ちなみに途中退場はできないでご注意を。
食事も含めた滞在時間は大体3〜4時間くらいになると思う。
常設展示の絵コンテ集が読み応えあるので、
その気になれば一日じゅういられないこともないが、
立ち読みになるのでやる気次第というところである。
日帰り圏に住んでいる方は美術館だけで事足りると思うが、
遠方からとなると、さすがにこの美術館のためだけというのは荷が大きいと思う。
下町・ベイエリア、または秋葉原などなど
別の観光目的地を組み入れてプランニングするのが良いと思う。
なんといっても首都東京なので何かしら自分に合う目的はあると思う。
あるいは「18きっぷ」を使って、行きも帰りも夜行というのが可能なら安上がりではある。