アニメコラム「サイボーグ009」8
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アニメコラム集「サイボーグ009」8

第38話「黒い幽霊団(ブラックゴースト)」

放映日2002年7月14日

あらすじ

某国の医療施設で人工心臓の研究をしていたギルモア博士は、
ブラウン教授によって研究の場をブラックゴーストに移す。
004までの第一期計画、005以降の第二期計画で
サイボーグ戦士が次々誕生していくなか、
ギルモア博士の研究にかける信念はゆらいでいく・・

レビュー

今回のお話は全般にわたってギルモア博士の回想。
死んだと思われていたノーベル医学賞受賞者、ブラウン教授の招聘により
若きギルモアがサイボーグ計画への参加という形で
ブラックゴースト団入りするところから話はスタートします。
以下、ブラウン教授主導による001〜004号の完成と、拒絶反応による計画凍結。
ブラウン教授の死を経て、計画再開のめどがたちギルモア博士主導になったところで、
博士がこの計画の過ちに気づいて意識が朦朧となり倒れるも、
他の者たちによって計画は順調に続行。
まもなく009が完成するというところで博士がサイボーグの脱走を企てる。
というところまでサイボーグ計画におけるブラックゴーストの内幕が描かれています。

002や002〜004が完成したそれぞれの直後に、
サイボーグ戦士の実戦試験を行うことで、
計画を推進する博士たちの一連の行動という描写にメリハリがつき
退屈せずに時間の進行を追えるようになっているのは良かったと思います。
この際、002と003の会話によりサイボーグ化された側の
人間の気持ちも織りまぜられていて楽しめます。

サイボーグ戦士たちの戦士化については、009まで続きますが、
006〜008については連行されるところの描写にとどまっています。
006などは自分の曲芸で店を潰したところに、
運悪く支店の食中毒、養豚場の豚の脱走という不運が重なり、
気絶してしまったところを連行された、というコミカルな描写になっていますが、
全体の流れを阻害していないのは006のいいキャラクターゆえでしょうか。
酒に溺れてトップ俳優から転落した007も同様。

サイボーグ戦士たちのブラックゴースト時代については、
色々話が膨らませそうに思えるので、
今回のような別の話に追加される形ではなく、
個人的には一話あるいは数話にまとめて見たい気がします。

さて今回のお話は全体の形としては、
再び009たちの前に立ちふさがるブラックゴーストの存在を
視聴者に喚起させるものになっていますが、
なにより次回以降のミュータント編の伏線という意味が大きいようです。
若きギルモア博士の描写のなかに、
超能力戦士を人為的につくるミュータント計画の存在についてふれられており、
ブラックゴースト内ではサイボーグ計画と同列に扱われていた、
とすることで次回以降に戦いがはじまる
サイボーグ戦士とミュータント戦士の位置づけがつかみやすくしているのだと思います。

ひとつ難点をあげると、005の手術を前にしたギルモア博士が自分の過ちに気づくシーン。
自分に語りかける若きギルモアの幻影は、某国の医療施設にいた冒頭のシーンで、
若きギルモアが当時の責任者たる執刀医に放った台詞と同じものなのですが、
台詞だけでなく絵の方も同じに揃えた方がより分かりやすいのでは、と思います。

細かいところでは、
001〜004の冷凍睡眠機の後ろを横切るときに入る「時は過ぎ」のナレーションと、
横切る前と後のギルモア博士の姿を変えることで、
時間の大きい経過を示しているところが面白かったです。

第37話「星祭りの夜」

放映日2002年7月7日

あらすじ

時は七夕。ジョーは突然思い立ったあてのない一人旅で列車に揺られていた。
そしてとある田舎の駅に、なんとなく降り立ったジョー。
そこへ見知らぬ少女がが現れて、ジョーにボディガードを頼む。
黒ずくめの二人組の男に追われているという少女アリスは、
名乗ってもいない自分の名前を口にする。
「自分はジョーとの約束を果たしに来たのだ」と・・

レビュー

ジョーが突拍子もない状況を語る謎の少女を放っておけず、
田舎町で引きずり回され、翻弄され続けるなか、
本当に少女を襲わんかとする二人組の男が現れ、
しかも少女は自分の事を知っていて、覚えがない「約束」を口にする、
という展開が全編にわたって描かれます。
状況が全く理解できないというジョーの視点に置く描写が
実にミステリアスな雰囲気を醸し出していて、
視聴者をグッと引きつけていたと思います。

そしてクライマックスで明かされる真実。
少女の正体は時間旅行を可能とする能力をもつ人種で、
ジョーが心の底に抱いていた「母に会いたい」という願いを、
七夕で且つ流星が現れる夜、という共通の「条件」が整った今、
「条件」のもう一方の時間軸である、母の少女時代に
ジョーを時間移動させてかなえるというものでした。
物語としては見事でしたが、
そこに至る展開がミステリアスな雰囲気にこだわり過ぎたようで、
クライマックスシーンにおける肝心の部分
「そうか。そういうことだったのか」というジョーの台詞が、
とても瞬時に理解できるものでなかったのは失敗だったように思います。
冒頭の列車内のシーンに、どこかの親子の楽しそうな姿を入れるなどして、
潜在的にあるジョーの「母に会いたい」という願いを
視聴者が思い起こすような伏線を散りばめるなどすれば良かったのではないでしょうか。

とはいえ、全編ジョー一人による今回の物語では、
元々孤独な存在であったジョーの姿がよく描かれていて楽しめました。
田舎町という舞台設定も、
ジョーの心象風景の描写を感じさせる演出として機能していたと思います。

それにしても、いよいよ次回から姿を現すブラックゴーストの驚異が、
いわゆる「敵キャラのインフレ(※)」によって破綻(過小評価)しないように、
異次元、創造主、時間旅行者など、
あの手この手のアイデアが出てくるのは感心しきりに思います。
一方で、そこまでして短編を作る必要があるのか、
とアニメ版を見る限りでは感じるのも事実ですが(笑)

※戦闘を扱う作品において、シリーズが長期化すると
強くなる主人公にあわせて敵キャラも強くなっていかざるを得ないという現象。
それにより、最終的に敵が神秘的、観念的といったオカルト的なものになったり、
最初の敵が著しく弱い存在になるといった弊害が起こる。

( 更新:2002年7月26日 文責:ごま )
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