アニメコラム「サイボーグ009」7

アニメコラム集「サイボーグ009」7

第36話「凍る大地」

放映日2002年6月30日

あらすじ

6月だというのに東京は夏の暑さ。しかも水不足に陥っていた。
その原因は東京の暑さとは一転して水源地に続く氷河状態だった。
氷河が起こった最初の地「山神洞」は、006が茸の入手相手がいるところでもあり、
009、ギルモア博士とともに調査にやってきたのだが・・

レビュー

正直いって今回はあまり面白くなかったです。
東京の水不足状態と、その原因である氷河が急激にとけると今度は水没という2つの危機、
絵描きとして食えないばかりにブラックゴーストの手先になってしまった迫、
という2つの要素を詰め込んだばかりに、
どっちつかずの散漫な印象を与えたことがその原因だと思います。

今回の場合、より問題なのは東京の危機的状況なのですから、
迫親子の描写は省略して、
暑さと水不足、水没という東京の危機的状況をあおっていき、
その解決に立ち向かう009たちという構図にした方が良かったのではないでしょうか。

これまでの話から考えて、 氷河装置の番をするのは人間ならずとも機械で十分でしたし、
ブラックゴーストの復活(存在)を009たち側に判明させるための役割も、
別の方法でいくらでも可能だったと思います。

氷河装置による009側とブラックゴースト側の攻防という舞台装置そのものは、
話を面白くさせるためのものとしては十分なものであり、
作り方次第ではそれが果たせていただろうと思われるだけに、
今回のお話は残念でした。

細かいところでは、 迫の絵を見た006の「ウチの店では飾れない」という台詞が、迫の絵描きとしての実状を、
洞窟で見た足跡が、迫から借りた登山靴の足跡と同じという描写が、迫が犯人であることを、
それぞれ伏線として上手く描かれていました。

それにしても、分かっていて氷河の調査にやってきたギルモア博士のあの醜態。
服装、その他の装備全てが軽装だったのはいったいどういう事なのでしょう(笑)

第35話「風の都」

放映日2002年6月23日

あらすじ

南米ボリビアの遺跡にやってきた003・004・005・007・009の五人。
サー・バン・アレンの探検隊が消息を絶ったという報を聞き、
売れない役者時代から良くしてくれたという恩がある007たっての希望で捜索に来たのであった。
そこで009は伝説であった黄金のピラミッドとそこで一人たたずむ美女イシュキックに出会う。
一方ほかの四人は探検隊の亡骸を発見。
一度、イシュキックを見失った009と合流した五人は事の真相に迫っていく・・

レビュー

引き続き短編からのお話だったのですが「二度目は苦しい」というのが正直なところ。
ブラックゴーストを出さずに強大な力を持つ存在を描こうとすると、
前回のように、どこか小賢しいケチな輩となるか、
今回のように異次元あるいは地球外生命を絡ませるしかなくなってしまいます。
イシュキックを作った創造主という存在とそれによるテクノロジーという構造は、
第27話「小さな来訪者」と全く同じで目新しさに欠けます。

個人的事情による見方を優先させる007と、
先に出会ったことによりイシュキックを思いやる009の
2つのドラマを描いて置いてクライマックスで対立させるというストーリー展開は
009の主張に自分たちサイボーグと立場を同じくするという要素もあり面白かったです。

一人歌うイシュキックの描写は、島本須美による演技との相性が抜群で、
ボリビア山中に立つピラミッドの不思議さを演出する役割を果たしていました。
ただし、あくまでこれはその一助であり、
ピラミッドの描写がほとんど外観でしかなかったことがマイナスとなり、
この舞台設定の面白さが十分には出せていませんでした。
また、実在の南米の遺跡や古代文明などを説明するシーンを
最初の方に挿入して遺跡ムードを盛り上げるという方法もあったと思います。

クライマックスでイシュキックに歩み寄ろうとする009を引き止める台詞をはじめ、
003が009のことを思いやるいくつかの言動は、
これまでにも何回か伏線が張られていたとおり、
003が009のことを好きだという前提にしたものなのですが、
今回のは作り手がその前提を意識しすぎていた感があり、
その台詞には003の気持ちが唐突に表に現れたような印象を受けました。
これまでの話で003の気持ちを少しずつ明確にしてからにするか、
今回も伏線程度に控えめな台詞にするかしても良かったのではないでしょうか。

009と巨人が戦うところで、
「加速装置」と叫んだところで巨人にはたき落とされる場面が可笑しかったです。
加速装置発動直前に敵の攻撃を受ける
というスリリングな描写をするにはそれしかないのでしょうが、
どうしても間抜けに見えてしまいます。

第34話「ファラオウィルス」

放映日2002年6月15日

あらすじ

ギルモア博士の旧知の友、ハーシェルに誘われてエジプトにやってきた
ギルモア博士と009、003の3人。
ハーシェルは医学博士だが、
細菌によるミイラの痛みから守るためエジプト政府から依頼されたという。
009たちがやってきた翌日、ハーシェルによるミイラの「健康診断」が行われるはずだったが、
突如ハーシェルをはじめ研究員たちが高熱に襲われる。俗にいう「ファラオの呪い」か。
しかしハーシェルはその原因が新種の細菌「ファラオ・ウィルス」であることをつきとめていた。
それをしらされた009たちは、ワクチン精製に「エジプト紅花」が効果ありとつきとめるが・・。

レビュー

原作にもある話で、ここ数話連続している短編のひとつなのですが、
今回のは何から何まで疑問符だらけ、穴だらけで練り込み不足を感じさせました。
まず「アレキサンドリア商会」によるファラオウィルスの驚異からカイロの街を守る、
という基本コンセプトが盛り上がりを欠く最大要因。
ブラックゴーストとの関連性もなく、
サイボーグ戦士の悲哀やテクノロジー進歩の善し悪し
という、作品の根幹をなすテーマもなかったことが大きかったです。

003が、008を制して作戦行動に赴いたばかりか単身敵機に乗り込んだのも意味不明。
本編の描写では、003がこの作戦に積極さを見せる行動原理にも乏しかったです。
原作では003がファラオの王妃の夢を見ることで説得力を持たせていたのですが、
本編においては「会話のなかに王妃への言及が一言あった」という程度の描写で、省略し過ぎでした。
これにより、策敵能力以外は普通の人間となんら変わらない003の単独行動に説得力がなく、
単に危険極まりない無謀な行動に出ただけの印象で、見ていて納得できるものではありませんでした。
この単独行動も原作にはないアレンジでしたが、半ば無理矢理003を活躍させるための演出に感じました。
003を活躍させるための演出目的であるなら、
他の戦士を同行させるなど、納得できる演出方法があったと思います。
また、ウィルス爆弾投下のシーンで、009が加速装置を発動させる方法もありました。

「009」としての面白さには欠けている、とはいうものの、
これは最近数話と比較した辛目の評価というもの。
「アレクサンドリア商会」の驚異から街を守るという勧善懲悪話として、
一本筋が通っていましたし、
作画面も及第点で楽しめる出来にはなっていたと思います。

( 更新:2002年7月9日 文責:ごま )