『piano』6〜10話 ごまのアニメ批評日記

ごまの「アニメ批評日記」

『piano』

第1話 〜 第5話 : 第6話 〜 第10話
更新:2003-01-27

01.20 第10話「やさしさを持って」

高橋先輩の受験合格発表日と重なった美雨のピアノ発表会、という話。
立ちはだかった壁の前に逃げ出しそうになった事を何とか乗りこえた、
という前回とは打って変わって意識的に押さえた演出が逆に新鮮でした。
そのなかで、自分でチケットを高橋先輩に手渡すという積極性を見せた主人公の美雨をはじめ、
最後の美雨自身のモノローグにある通り、
回りの人間が美雨を温かく見守っているというところが自然に描写されていました。
伏線だった美雨の姉と白川先生との過去の関係が、
美雨を見守るという形で明らかにされていたのも良かったです。
白川先生がレッスン中、窓の外ばかり見ていたのは、ただのぶっきらぼうと思いきや、
実はレッスンという内なる世界から外の世界を眺めていたという暗喩で、
最終回に至って外の世界に出ることを決心、それを決めたのは美雨の存在。
何ということのない描写が最後主人公に絡んでくるという演出が見事でした。

01.20 第9話「愛しさを込めて」

作曲が進まない美雨がピアノ教室をやめてしまう、という話。
美雨に優しく接しているようでいて、
実はピアノ教室という枠内でしか物事を語ってなかった夕凪先生と、
これまで厳しくぶっきらぼうに接していたようでいて、
「発表会も出なくていい。教室を辞めてもいい。でもピアノは辞めるな」
と美雨の一人の人間として見つめた上での言葉を土壇場で発した白川先生。
美雨の心に届いたのは・・という、夕凪先生と白川先生の対比が実に見事でした。
滝沢先輩の使い方も上手いです。
直接的には高橋先輩を気遣っている描写と受け手に見せておいて、
本当の目的は優希が美雨を気遣う気持ちの深さを間接的に示すという演出でした。
あと、美雨と優希が「仲直り」するシーンで、
美雨のことを思って友達の縁をきった(ふりをした)優希だけが泣いている、
という描写もリアリティが感じられて良かったです。

01.09 第8話「哀しく、沈むように」

お正月気分もそこそこに発表会に向けて曲作りに励む美雨だが、高橋先輩病気の報に動揺する、という話。
モチベーションも高まって曲作りを始めてみるも完成には至らず、更には良くない知らせが追い打ち、
という美雨の描写がリアルで、すっきりしない美雨の気持ちがよく伝わってきました。
創作するときに誰しも一度は行き当たる壁、生みの苦しみをご都合主義で逃げずにストレートに描いていて好印象です。
お正月を過ごす美雨の一家の描写もいつも通りリアル。
初詣に誰と行くかという会話では、美雨に対する父と母の心境が良く表されています。
あと、父が着物の下にボタンのついた下着を着ているところが妙に細かくて面白いです。

12.29 第7話「心を込めて大胆に」

発表会に出るかどうか結論を出せないでいるところに、憧れの高橋先輩も来るクリスマスパーティに誘われる、という話。
ピアノ教室での話と、高橋先輩や優希など学校を舞台にした話、
2つのストーリーラインが美雨のリアルな日常として描かれているわけですが、
クリスマスパーティにおける高橋先輩とのやりとりがモチベーションとなって発表会出場を決意する、
という展開によってこの2つが物語として上手くつながったという印象を受けました。
最後発表の決意を伝える電話のシーンには、いつもの煮え切らない態度との違いがよく現れています。
一度辞退されるも「じゃあ音楽係」という二段構えの誘い方をする優希、
まんざらでもなく机でピアノ演奏の手つきをしてしまう美雨という描写もリアルで良いです。
あと、美雨が将来の夢を聞かれたところで演奏に切り替わり、
演奏後「ピアノの先生になれる」と他の人に言わせることで美雨の返答を明かすという演出も良かったです。
ひとつだけ気になるのは高橋先輩の人物描写。
受け答えにソツがなさ過ぎるところをはじめ、描写が薄くて筋立ての道具にしかなってないような気がします。
本作では両親や優希、白川先生など美雨に接する人物すべてがリアルに描写されてる分、余計にそう思えます。

12.22 第6話「生き生きと-con fravana-」

ツアーコンダクターで忙しいはずの姉が突然休暇をとって帰宅してきた、という話。
姉の帰宅は、実は仕事による精神的疲労のためのもので、家族には休暇と称して意地をはっているという真相だったのですが、
全く分かってない美雨、お見通しの母、何となく分かっている父、と三者三様の反応ぶりを上手く描き分けていました。
真相らしき事情を知るやいなや「姉も優希もみんながんばってる。自分にはピアノしかない」と彼女らしい切り口で姉に説教をたれる美雨、
美雨を公園にいる姉に会わせるために確信犯的におつかいを頼む母など、
それぞれの性格がよく描かれていたと思います。
姉と白川先生になんらかの関係があるという伏線もあってピアノ教室のあたりは注目でしたが、今回もその真相は描かれずじまい。
ただ姉の姿を見て、自分の演奏を聴かせるレッスンに変えた白川先生の姿には、
曰くありげなものが感じられ、今後にますます注目したいところです。
あと、冒頭のシーンでは制服が冬服に変わることで時間の経過を示しつつ、
優希と滝沢先輩の関係が順調に進んでいることも間接的に表しています。
このシーンで一人下校する美雨の少し寂しげな表情も印象的でした。

第1話 〜 第5話 : 第6話 〜 第10話
更新:上記参照 作成:2003-01-09 文責:ごま
Copyright © 2003 goma. All rights reserved.
当サイトへのご意見・ご感想のメールお待ちしてます。