讃岐うどん基本編:讃岐うどんブーム

讃岐うどんブームの経緯

香川県のタウン情報誌「タウン情報かがわ」における連載記事「ゲリラうどん通ごっこ」とその単行本「恐るべきさぬきうどん(登録商標)」がブームの火付け役。

RSK(岡山のテレビ局)による数度の紹介番組を経て、その静かなブームに全国のマスコミが注目。ブームが全国に広がるに至った。

この連載記事を担当した編集長(当時)は現在フリーとなり、 連載当時のうどん店探訪仲間の名称「麺通団」を会社として発足し現在に至っています (映画「UDON」では「麺通団は概念」と言っていますが、現在は概念ではなく歴とした営利団体です)。

この連載記事を掲載した「タウン情報かがわ」の出版元「ホットカプセル」は「恐るべきさぬきうどん」の商標権を所有。
同社は2005年に会社清算、「あわわ」が同業務を引き継いでいます。

讃岐うどんブームの正体

讃岐うどん店巡り(讃岐うどんツアー)が香川県外に広がるブームになった実態を、当サイトでは以下のように考察します。
まずその実態に導く要素として次のようなことが挙げられます。

  1. 本物の名物であること
  2. 安い、量が少ない、油を使わない
  3. メニューのバリエーションや、店毎の麺・味の特徴も多岐にわたる
  4. 内容は千差万別であるセルフというシステム
  5. 立地、店構えが独特、時に「怪しい」
  6. 田舎っぽくもあり、懐かしい生活感を思わせる原風景
  7. そのような際立つ個性をもった店が、主に香川県内の広範囲に分布している

1.本物の名物であること

東京をはじめ全国ではラーメンをはじめご当地名物食品が度々ブームになっています。既にいくつもの県外出店や百貨店での出張販売等が見られる讃岐うどんもしかり。これは各地に本物の名物・名産が存在することを意味しています。

2.安い、量が少ない、油を使わない

安いのは事実として、意外に思われるかもしれないのが量の少なさ。讃岐うどんでは、麺一玉を最小単位として、そこから腹具合に応じた玉数に増やしたり、天ぷらをいくつか乗せたりして、昼食としてのうどん一杯が完成します。そのため最安値で食べられるうどんの量は少ない。だしの量も、「かけうどん」では他地域が深手の丼に入っただしに浸かっている感じなのに対し、讃岐うどんでは浅手の丼にひたひた程度。「ぶっかけうどん」(後述)は言うまでもありません。またラーメンのスープが脂分を含むのに対し、讃岐うどんでは天ぷらや天かすを乗せなければ油分はありません。

3.メニューのバリエーションや、店毎の麺・味の特徴も多岐にわたる

メニューや各店の特徴については後述の「基本編」「実践編」の通りです。

以上三点から導かれるのは「食べ歩きへの憧憬」だと思います。
「食べ歩き」という言葉自体はマスコミのグルメ企画でよく目や耳にされるかと思いますが、実際食べ歩きを行った方は少ないのではないでしょうか。例えば、低価格な外食であるラーメンでさえ、3軒も食べ歩けば軽く2000円前後にはなりますし、スープを含んだ一杯の量は決して少なくない。こってりしていれば腹にもたれるし、あっさりしてれば飽きてしまうでしょう。 対して讃岐うどんは100円のうどん3軒なら300円で、一玉なら量も少なくあっさり。バリエーションが豊富で飽きも来にくい、と何から何まで「食べ歩き」に絶好の条件がそろっているのです。

4.内容は千差万別であるセルフというシステム
5.立地、店構えが独特、時に「怪しい」
6.田舎っぽくもあり、懐かしい生活感を思わせる原風景
7.そのような際立つ個性をもった店が、主に香川県内の広範囲に分布している

加えて後者の四点も大きい。
いかにも興味が湧く立地や店構えが広範囲に分布しているとなれば、それを巡ることはテーマパークの様相を呈しています。また公営の博覧会や民営のテーマパークのように、訪問客を動かす形が人為的に作られたものではないということも注目です。人はテーマパークのような所で遊びたいと思う一方で、そういうのを「やらせ、やらされ」だと感じる感覚ももちえています。一杯たった100円で、懐かしさを感じさせる原風景を体感しつつ、自然にできたテーマパークを楽しめるということが、安くはない往復の交通費をかけてでも香川に来させる要因になっていると思います。

あと、やはり長引く不況の影響から、安価で楽しめるレジャーとして見られている部分はあると思います。それとの関連はよく分かりませんが、レジャーや観光がバブル期以前と比べてシンプルになってきているというのもあります。これは以前は観光の一要素であった温泉入浴が、現在では観光目的化しているのと似ています。

讃岐うどんブームの分析

/ 1990年代 2000年代
客層 香川県人がほとんど 香川県外人が多くを占める
キーワード うどん店探訪 うどん店巡り
情報発信者 恐るべきさぬきうどん(タウン情報かがわ) テレビ、雑誌、インターネット
情報内容 怪しい店 美味しい店
解説

県内のタウン情報誌が情報発信者のため客層は地元香川県民中心。
同誌の訪問記と共通体験することが根元にあるため、紹介された怪しい店をピンポイントで狙うのが行動のベース。
一日数店訪れる方法もあくまでその集合体に過ぎない。
ちなみに映画「UDON」にあった「迷惑駐車による閉店」のモデルとなった事件は1992年頃起こっている。
1990年代後半には、全国のマスコミに紹介されはじめ県外人による訪問が増えていく。

全国規模のマスコミやインターネットが情報発信者のため県外人が多くを占めるようになった。
情報発信の担い手が全国規模のものに変わったからであるが、その変移の過程で紹介の重心が「怪しい」から「美味しい」に移った。
限られた機会・期間を利用して遠くから香川を訪れるため、必然一日に訪れる店の数も増える。
結果として「讃岐うどん店巡り(讃岐うどんツアー)」というスタイルが確立されていく。
さながら自然にできたテーマパークを楽しむかのように県外客はうどん巡りしている。
そして2006年、映画「UDON」公開。

現在の讃岐うどんブームの実態を詳しく知るため、いくつかの要素を年代別に箇条書きしてみました。

ここでまず重要なのは、全国的に紹介される過程で重心が「怪しい」から「美味しい」に移ったということです。
その紹介では「恐るべき」と同様「田園地帯の一角に忽然と姿を現す店」とか「自分でネギを刻まなければならない」など、その怪しさをセンセーショナルに伝えていました。
ですが何よりも受け手に伝わったのは「しかも美味しい、安い」ということです。
なにせ相手は食べ物。立地や店構えが怪しいというだけで客が、しかも遠方から殺到するはずがありません(であるなら全国の飲食店は即刻改装工事にかかるべき)。
それほどの人がわざわざ遠方から食べに訪れるのは美味しいからなのです。

もちろんブームの火付け役の「恐るべき」でも店の美味しさは伝えていましたが、それが全てというわけではありませんでした。
それどころか皮肉にも「美味しい店ランキング」や当サイトでも取り上げる「S級店」といった「恐るべき」の一企画に過ぎなかったはずの店ばかりが、全国的にこぞって紹介され人気店が形成されていきます。
そのことを今「情報の一人歩き」と指摘する動きもあります。
確かに他の美味しい店に比して特定の店に人気が集中しているのも事実ですが、ランキング店やS級店といった特定の店が人気を得るというトピックがあったからこそブームが形成されたのもまた事実なのです。
それはいわばブームが築かれる際の通過儀礼というべきでしょう。
あくまでブームを作るのはそこにいる人達なのです。

当サイトではこれらを踏まえ、大所高所ではなくブームの中にいる者の同じ目線の高さからうどん巡りの楽しさを伝えていきたいと思っています。