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アニメコラム 2003年11月02日〜11月07日

テレビアニメ番組の各話または全体の批評を、日記より更に突っ込んで書いていきたいと思います。

2003.11.06

宇宙のステルヴィア」第26話(最終回)「きらめきはこえ」

全話の評価 ★★★ 公式のあらすじ

志麻たちのがんばりによって、人類に危機をもたらしたコズミックフラクチャーが予定通り消滅する、という話。

後述するシリーズの大筋もそうですが、特に人間の内面的部分に関する描写が終始ご都合主義でした。

志麻が能力を開花させていくところを中心に描いた前半については、前半各話の批評を参照のこと。
後半では、能力的な壁につき当たった志麻が強情をはったことが原因で、彼氏になった光太とギスギスした関係を続けつつ人類最大の危機という局面にむかっていきます。
光太に対して強情な態度をとり続けたり、ステロタイプな恋愛観を見せるのは部分的に見れば別に問題ないのですが、
自分の能力に対して、また割と仲良しだった光太に対してもマイペースののんびり屋だった前半と合わせると、
まるで別人かと思える程、整合性が全くとれていません。

光太は光太で、前半は志麻に対して保護者並みの理解力を示していたのに、
志麻の彼氏になった途端に女性の心理が理解できない、理解しようとしない普通以下の男の子に成り下がってしまっていて変です。

友人のアリサ、弥生、あきらの三人も、親身になってみたりケンカしてみたりと、一見リアルな描写に見えなくもないですが、
よく見ると、それぞれの状況における役割以外の描写が晶を除いて全くといっていいほどなく
(例えばアリサ。プライベートな描写は? 恋話のひとつもないのは何故?)、
実は作り手の都合によって動かされる駒程度の存在に過ぎません。

大、ピエール、ジョジョの男性陣は、志麻に対して「男の友人たち」で括れる軽めの存在だったこともあり、
恋愛ネタに関しての三人のかけあいなどはリアルなものになっていました(裏を返せば女性が全然リアルではないということ)。
あと、最初から我が道を行く感があった晶の人物描写が割とできていたのと、青臭いロマン派でお調子者のジョジョのキャラクターが立っていたのとで、
ジョジョと晶のサイドストーリーでの、この二人による恋愛の「らしさ」が出ていて楽しめたのが救いでした。

佐藤竜雄監督作品の共通点「予定調和」

本作の放送に「学園戦記ムリョウ」の地上波放送と、
この半年は佐藤竜雄監督二作品(CSでは「機動戦艦ナデシコ」もあり)を同時に見てこられたわけですが、
どちらも受け手の評価が二分しているように感じられます。
その理由は、作品の「予定調和」的構造にあると思います。
二作品に共通することとして、仙人あるいは予言者のような達観を見せる人物が多いことが挙げられます。

本作では、リチャード、カールの重鎮が象徴的存在で、「ムリョウ」ではムリョウを筆頭にジルトーシュ、山本忠一先生、真守百恵、津森他多数挙げられます。
ひとたび何事かあって「さあ、これからどうなる?」というとき、
これらの人物が決まって「大丈夫。彼等(主人公たち)なら、できる」
とかなんとか言って、先の明るい見通しを与えるのが監督の真骨頂です。
その後、いかなるスペクタクルが待ちかまえていようと、スリル・サスペンスという部分については「終わって」しまってます。

野球にたとえてみれば1点ビハインドで迎えた9回裏二死二三塁の局面で、強制的に三塁ランナーをホームインさせるようなもの。
「同点あるいは逆転できるか。はたまた後続を断たれて敗戦か」と緊張感で盛り上がっているのに、
勝手に同点にされてしまって、あとは勝ちにいくだけ。
野球ならまだ盛り上がれるところですが、
アニメだと先が分かり切ってる「水戸黄門」みたいなもので、緊張感が一気に萎えてしまうのです。

それでも二分した評価の一方、即ち楽しめる人がいるというのは、
予定調和な「水戸黄門」が長らく続いているのと同様、アニメにおいてもこういう需要が存在したということでしょう。
人物描写がいい加減なのは頂けませんが、「水戸黄門」は好みの問題なので需要があるのなら、それはそれでいいのではないかと思います。

脚本・絵コンテ・演出:佐藤竜雄 作画監督:高見明男

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2003.11.04

ボンバーマン ジェッターズ」第52話(最終回)「進め!ジェッターズ」

全話の評価 ★★★★☆ 公式のあらすじ

ジェッター星とボンバー星の衝突30分前、という話。
最大の見どころは、シロボンをはじめジェッターズやジェッター星・ボンバー星の人たち全員がマイティの最期の映像を見るところ。

受け手の心にズシリと響く名場面

普通、こういうシーンはどうしても空々しさが前にきてしまうのですが、
本作はマイティのとぼけた性格、それをシリーズ中でしっかり印象づけたことで一切打ち消すことに成功していました。
映像的にもマイティの前・後ろ・横と多方向からの視点で描くことによる立体感で、マイティの映像と食い入るように見つめる面々というその場の臨場感が出ていたと思います。

ここでのバーディの「マイティ!(俺は)ここにいるぞ!」という叫ぶところは
直前の「みんなと連絡がとれないや」というマイティの(性格を生かした)台詞、間の取り方、バーディの演技が絶妙に決まっていて、
受け手の心にズシリと響く屈指の名場面でした。
ただ、同時にあったミスティの台詞の方は演出・演技ともに心に響くものがなく残念でした。
あと、この一幕の最期の「ありがとうシロボン」という台詞も、
ゼロの台詞を意図的にマイティのものと錯覚させる意味とのダブルミーイングをもたせた上手い演出でした。

4クールのシリーズ全体の出来は…

4クールのシリーズ全体の出来を見渡してみると、
やはり2クールの前後で放映延長のあるなしを考慮していた(としか思えない)関係上、
2クール目までの濃密さと比べ、3クール目は著しく停滞し、4クール目はほとんど大筋の流れを追うのが精一杯で、
変なたとえですが、今年(2003年)の阪神タイガースの勢いとよく似た印象を受けます。
即ち、前半(2クール目まで)ぶっちぎりで快走、8月(3クール目)に勢いが止まり、
要所要所をエース井川(マイティ)でしのいで終盤(4クール目)を逃げ切って優勝(名作)を決めたという感じです。

脚本:前川淳 絵コンテ・演出:小寺勝之 作画監督:香川久

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2003.11.02

「エアマスター」第1話「飛べ!エアマスター」★★★★★

全話の評価? 公式のあらすじ

転校してきたばかりのエアマスターこと相川摩季がルチャマスターと戦う、という話。

原作は柴田ヨクサル。「ヤングアニマル(白泉社)」連載の格闘技漫画のアニメ化。
格闘アクションの映像表現が屈指の出来映えで楽しめます。
スローな動きからスピードのある動きへとつなげるのが基本的手法のようで、
スローなところで受け手にアクションを予測させることで、次にくるスピードのある動きの迫力が大いに増す、という仕掛けになっています。

スローな動きを引き締める構図と背景

スローな動きのところではカメラアングル、トリミングの取り方が絶妙に決まっていて、ほぼ一枚絵なのにカッコ良く見せています。
この時のキャラの表現も動きの方向をすごく意識したものになっていて、二次元なのに三次元的な迫力がでています。
特に摩季がルチャマスターの攻撃を交わす時の動きによく表れていました。
舞台の選択、背景の描き方(パース)も「単なる書割」ではなく臨場感や迫力を増す一因となっていました。

独特の構図で三次元的な空間を演出

スピードのある動きのところでは、できるだけキャラに近づきつつ画面全体を使ってキャラ全体をきっちり描くという構図の取り方に注目。
通常アクション映像においては、ロングショットで全体を映しておいてから動いている体の部分のアップへとつなげるのが特にテレビアニメでは多い手法で(図1)、
本作の構図の取り方は従来「バレエアニメ」や「サーカスアニメ」など、身体のラインを美しく見せるために使うものでした。

本作ではそれとは違い、三次元的な空間演出のためにこの構図の取り方を使っているのが実に面白い工夫です(図2)。
ここではキャラクターの動きに合わせて動かすために、背景がCGに切り替わっているところも一連の演出を象徴しています。

図1)他作品のよくある構図図2)本作の構図
アニメの通常アクション映像 エアマスター第一話

さまざまに工夫が施されている本作

他に印象的だったのは、ビルの谷間に入ったとき摩季の顔につく影(またはハイライト)が動いていたこと。
キャラクターがわずかに動いていることを印象的に見せる工夫です(これが本当の神作画)。
戦いに勝った直後など、摩季の全身を下からなめ上げていくカメラワークも迫力が出ていました。
ビルの上方にある明かりのある窓のカットから回想に切り替わるのも面白いです。

キャラ配置もなかなか秀逸

キャラ配置も適当に見えるようでいて、なかなか秀逸。
滝川ユウが今回前座的役回りなのは明らかですが、極端に背の低い乾蓮華の存在が下からの構図を自然に多用するために使われているのが唸らされます。
演出的にも滝川ユウがナンパ野郎に倒されて涙を流すカットから、乾蓮華の泣きベソ顔に切り替えて湿っぽさを緩和していたのが上手いです。

全体的に間延びしている印象

ひとつ気になったのは摩季の目の光が残像になっている映像。
摩季が正真正銘本気になったという象徴的意味合いがあるのかもしれませんが、唐突な印象でした。

あと、全体的に間延びしているきらいがありましたが、
ルチャマスターの長台詞は台詞自体の面白さと雰囲気の盛り上げなどで間はとれていたので、ここの評価は微妙なところ。
逆に「おもしれえヤツだなぁ」の台詞の後ルチャに倒されるナンパ野郎のところは、もっと「引き」で間をとっても良かったと思います。

トリミング】写真の原版を引き伸ばすとき、周囲の不要な部分を省いて画面を整えること。 「口絵の写真を―する」

書割】芝居の大道具の一。木枠に布や紙を張り、建物や風景など舞台の背景を描いたもの。〔何枚かに分かれていることからの称という〕
(共に『大辞林第2版』より)

脚本:横手美智子 絵コンテ・演出:小村敏明 作画監督:石川晋吾

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作成:2003-11-13 文責:ごま(goma)
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