テレビアニメ番組の各話または全体の批評を、日記より更に突っ込んで書いていきたいと思います。
全話の評価★★☆ 公式のあらすじ
貝塚ひろこの操る「竜の子」が、彼女をいじめていた女の子達を殺戮する、という話。
最近の漫画原作付アニメの傾向である「続きは原作の方で」とでも言いたげな中途半端なまとめ方、
というのが一因ではあるのでしょうが、だとしても本作の作りは変です。
シリーズから見えてくるストーリーの要素は三つ。
冷酷無比に殺戮を行う須藤陣営と自衛隊・民間航空機との戦闘など衝撃的な映像が極めて印象的であり、
シイナの母の動きも伏線的に描かれていることから(1)が物語の主軸かと思われたのですが、第10話以降須藤陣営の動きが鳴りを潜めてしまいます。
(2)は佐倉の第2話からの登場から要素としては一応全話を通してますが、(1)の印象度が強すぎてサイドストーリー的な印象しかなく、第11話からの展開は唐突に過ぎませんでした。
また貝塚についても第4話のシイナが小沢に平手打ちされる一幕に伏線的な台詞がありますが、その後一切登場せず印象が弱く下手な伏線。(2)を主軸とするなら須藤陣営を「こういう人もいる」というゲストキャラ程度に留め、いじめの蔓延ぶりを強調した方が良かったはずです。
(3)は(1)(2)が並立していること、江角ジュンの単独エピソードである第10話の存在などが根拠ですが、これも(1)の印象が大きく、印象度の強弱からいってそういう風には見られません。
あと、鶴丸の交際相手や高野の後輩、佐倉や貝塚へのいじめ、シイナの母など主に女性の身勝手さというかダークな部分の描写も演出要素として考えられますが、ステロタイプで陳腐な演出や「女性による性的虐待」といういじめのリアリティの無さで意味不明な印象でした。
また映像的に見ても、(1)主体による序中盤の不条理さから、それとは無関係ないじめの復讐を主としたカタルシスへ、とまとまりがありません。冷酷無比な殺戮がしたいのなら単にホラー作品にでもすればいいのでは、と本編を見る限りでは思えます。映像そのものも、テレビ放映アニメにしてはより残酷的表現へと工夫したつもりなのでしょうが、ハッキリ言って安っぽい映像の域を出てなかったと思います。絵柄も原作を踏襲したらしいという以外はこれというものがありませんでした。
以上、どこをどう見てもちぐはぐになっているシリーズ全体の作り。
どの要素を軸にするにしても現状よりましな作り込みはいくらでもできたはずですし、
本編の各話を生かすなら、先にいじめの話を大きくもってきておいて「だからこそ世界の改変を」と須藤陣営につなげるやり方もありました。
なのにそのいずれもせずにちぐはぐな道に進んで終わった全く不可解な作品でした。
脚本:小中千昭 絵コンテ:そーとめこういちろう 演出:宮田亮 作画監督:荒尾英幸
「カルヴァリオの秘石」の発動で人類を滅そうとする曳士と、それをくいとめ妹・光流を取り戻そうとする戎との攻防、という話。 (→公式のあらすじ)
戎と明日香が(何故か裸で)キスしようとする「あのED」を毎度毎度見せられていたおかげか、
「どんなにクサいラストでも許す」というか、いかに二人のハッピーエンドにもっていくか、
期待させる流れだったと思うのですが、肩すかしのようなラストでした。
映像的にも、戎と曳士の戦いを光の線で表現したり、エピローグを止め絵で示したEDなど、
工夫というより枚数的に苦しいという印象の方が先にくる作りでした。
「きっと戎は帰ってくる」と信じる明日香と光流とのラストシーンも、EDの後にもってきた方がしっくりした形で終われたように思います。
最後の一話としては今ひとつでしたが、シリーズ全体を見ると良くまとまっていました。
本作は能力者が乱舞する映像による印象から単なるヒーローもの(ぶっちゃけた話「スクライド」の二番煎じ)かと思いきや、
実は人間と能力者の対立・共存など、キャラクターの内面に比重を置いた精神的な部分での物語だったわけですが、
ここのところの描写は終始絶妙だったと思います。
またアシュラム、教会、ゲリラそれぞれの陣営の主張や行動、対立構図などをしっかり描けてましたし、
それぞれの立場を背負って数多く登場するキャラクターもまんべんなく動かせていました。
シリーズの構成でひとつ注目したいのは第5〜9話の扱い。
ここでは勇基のところに居候する戎のその後しばらくの能力を生かした生活ぶりを、
ユーモアたっぷりなコミカル調で受け手を楽しませつつ描いています。
この間のエピソード、一見シリーズ上無駄な番外編的なものに見えてしまうのですが、
実は(普通の)人間と能力者の二つの存在、それをとりまく組織間の対立構図という世界観を単身アシュラムを飛び出した戎が理解していく形になっていて、
その後の展開を違和感なく自然に、かつ戎の行動を一本筋の通ったものとして受け入れさせる要因として機能していました。
ただその分、当初の戎のアシュラム時代の話が実質3話分でしかなかったのが痛いです。
最終回を迎えた今だからこそ、全体を見渡してバランスはとれていると言えるのですが、
シリーズ開始当初はハッキリ言って駆け足な感が否めず、この時点で進行についていく気持ちが萎んでしまうのは作品として大きく損をしていると思いました。
話全体のボリュームを考えるとやはり26話(2クール)では少なく、あと1クール欲しかったところ。
戎のアシュラム時代や、クライマックスの戦いなども膨らみがもたせられたでしょうし、
まんべんなく動いてはいたものの話数が足りなくて仕方なく削った感のある、戎・神龍・勇基以外のキャラ描写(特にマキシム・マリア)の深みを出すことや、
戎と神露、戎と明日香のロマンスなどが十分可能だったと考えると勿体なかったと思います。
とはいえそのように思えるのは物語全体を上手くまとめていたからこそであり、
26話という話数、ストーリー、絶対必要なキャラクター描写など、
限られた条件下で本作独特の世界観を表現することができていて、作り手の気概の高さも感じられました。
シリーズを最初からもう一度じっくり見てみよう。そんな風に思わせる作品でした。
脚本:千葉克彦 絵コンテ:横田耕三 演出:下田正美 作画監督:浜津武広