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ごまの「アニメ批評日記」

『京極夏彦 巷説百物語』

2004.01.26 第4話「舞首」

全話の評価 ★★★★☆

原作は京極夏彦。角川書店刊の小説のアニメ化。 「後巷説百物語」が第130回直木賞受賞。
江戸時代を舞台に「人間の業」を妖怪話を織り交ぜて描く作品で、アニメ版では世界観の描写と声優陣の名演が特筆もの。
映像では曲線や斜めの構図を多用していびつな背景描写とすることで、怪談風の世界観を上手く表現しています。

今回の話は、主人公・百介が出会った美女にまつわる話。
父による性的虐待によって歪んでしまったお吉を描いています。
お吉の表情や仕草、お吉役の清純っぽい演技で、
百介や網元、そして又重郎を魅了した魔性の美女として受け手に印象づけできていました。
既存のアニメでは特定のキャラが美女あるいは美少女といっても、作品内の他のキャラと比べて差別化できてないことが往々にしてあるのですが、
本作ではその辺りが上手くできていたと思います。
また又重郎を敵として見せつつ、お吉との因縁を匂わせ、又市らの存在を意味ありげに描いたことも効果的でした。
妹・お玉が既に骸であったという事実が明らかになる過程も上手く描けていて、クライマックスに生きてました。

最後のお銀の「(お吉の気持ちは)あんた(百介)には一生分からない」が締めくくりの台詞となっていましたが、
これは少々理解に苦しむもので最後の最後でしっくりこないものが残ったのは残念。
お吉・又重郎・お玉の三者の存在を謎解きの要素として入れている以上、
考えて解釈しないと分からないようにすることもなかったのではないでしょうか。
百介には分からないが、受け手には分かりやすいくらいの演出の方が良かったと思います。

脚本:藤岡美暢 絵コンテ:工藤鉱軌 演出:菅井嘉浩 作画監督:徳倉栄一

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2004.01.29 第5話「塩の長司」

全話の評価 ★★★★☆

腹痛に苦しむ当主・塩屋長次郎の屋敷へ百介が潜入して事の真相を暴く、という話。
謎解き話のお手本のような展開。謎解き要素の散りばめ方が良かったです。

冒頭で受け手に強く印象づけた人肉を食べているシーン(ちらりと見える衣服で死体と分からせている)を伏線に、
盗賊団の首領・百鬼丸と崖から落ちて、という十二年前の経緯を番頭・平助が語るくだりで百鬼丸によるすり替わりを、
塩屋にあらわれた又市と百介が互いに顔を背け合うところでは、百介が屋敷に来たところから既に百介と又市たちの打った一芝居であったことを、
真実が判明するクライマックスに至る前から先読みできて楽しめる構図となっていました。

ちょっとしたところで面白かったのは、百介が塩屋長次郎の屋敷に転がる直前の場面切り替え。
真相は、最初に茶店に入った又市たちが白庵・黒庵婆の依頼を受け、その直後婆の言により百介も芝居に合流するというものでしたが、
合流するところを省くことで最初に又市らとはぐれた百介が辺りをさまよって屋敷にたどり着いたと錯覚させる作りとなっています。

一つ難をあげれば、長次郎と百鬼丸が双子の兄弟だったという真相のひとつ。
番頭・平助がすり替わりに気がつかない説得力をもたせる設定でしたが、
平助による伝聞の回想である、伏線的描写が二人が斬り合うカットで二人の顔が似ているというものしかないというのは謎解きの要素としては不十分でした。

声優の使い方は微妙なところ。
塩屋長次郎と百鬼丸の声優が同じなのは、似た声の兄弟を演じた声優の演技の上手さを感じさせますが、
このことを糸口に「兄弟ではないか」と気づいてしまうのは却って興ざめな感がします。
白庵・黒庵婆さんの若い姿との演じ分けは面白かったです。

脚本:藤岡美暢 絵コンテ・演出:細田雅弘 作画監督:山崎健志

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2004.02.09 第8話「野鉄砲」

全話の評価 ★★★★☆

額に石が突き刺さった死体の謎と犯人を突き止めるために、死人と同役である兄の相談を百介が受ける、という話。
キャラ配置で事件の構図が推測できるものの(これも作り手の計算のうち)、
恨みを晴らそうとする真犯人が治平であることと、恨みの相手がタガミ(盗賊時代は兵部)であることをなるべく明かさないように話を進ませることで、
ちょっとした謎ときのようになっているわけですが、
このためである回想シーンの並び替えを使ったちょっとしたトリックが秀逸。

回想シーンは時系列に並べると
A 治平が盗賊に脅され、おたみが自ら死を選ぶ
B 島蔵が兵部に後ろから刺される
C 虫の息の島蔵が恨み言を言う
D 虫の息の島蔵のところに治平が駆けつける

これを本編ではC→A→D→Bと並べています。
Cでは恨み恨まれの構図だけを示し、
A・Bを切り離してA→D→Bの並びとすることで、
Aの盗賊を真犯人だと半ば錯覚させ、兵部が最後の最後までタガミと同一人物であることを上手く隠していました。

他にも二回見ると意味が違ってくる受け手へのだまし的なシーンがあって面白いです。
又四郎が軍八郎に相談する一幕。
映像では又四郎の視線の先、百介や軍八郎の背後からの野鉄砲を構える治平の視線に怯えて逃げ出したように見えますが、
全貌が分かってから見直すと、軍八郎の言う「明日タガミ様に話そう」を実行されると、
実は親分である兵部(タガミ)に盗賊のことを他人に漏らしたことがバレてしまうのに気づき、怖じ気づいて逃げ出した、という構図になっています。

戻って、百介を交えた役人一同で対策を話し合おう一幕では、
「又四郎、怖じ気づいたか」「いえ…」…「(又四郎)逃げ出すなよ」という又四郎とタガミのやりとりが、
部下に厳しい上司と出来の悪い部下のやりとりのように見えて、
後から見ると野鉄砲のことを知っている盗賊同士のやりとりになっていて面白いです。

脚本:藤岡美暢 絵コンテ:殿勝秀樹 演出:宮田亮 作画監督:荒尾英幸

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更新:2004-02-28 作成:2004-02-28 文責:ごま(goma)
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