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ごまの「アニメ批評日記」

『君が望む永遠』

2003.11.13 第1話

全話の評価 ? 公式のあらすじ

高校3年生の鳴海孝之が、女友達・早瀬水月の親友である涼宮遥と紆余曲折を経て「好きです」と告白してつきあうことになる、という話。

前半と後半でかなり印象が違う第一話でした。

前半は 細かい仕草・表情・台詞まわしで心の動きを見事に表現

前半は、客観的な視点でありながら、存在感が良く伝わってくる人物描写がとても好印象。
コンビニの前でじゃれあってる孝之・水月・平慎二のところは気のおけない友人という感じが出ていました。
水泳部の水月が練習中というシーンでの水の揺らめき具合、孝之お気に入りの丘での木漏れ日の描写は、
平穏でありながらもどこか不安定な青春の一コマ、という雰囲気を出していたと思います。

孝之をはじめ、第三者的視点で描かれているため、内面の描写がほとんどないのですが(水泳中の水月の回想シーンくらい)、
細かい仕草や表情、説明臭くないリアルな台詞まわしなどで、人物の心の動きが分かるのは見事でした。
特に遥の告白シーンの「なんだ。涼宮さんも呼ばれてたんだ。そっか…」のところは、
演技も良く、台詞と映像もピッタリ合っていて良かったです。

告白の直後、切り替わっての回想シーンは、全て水月によるものを意図しているようですが、
最初の水の描写が「遥→水月、切り替わり」のスイッチであることが分かりにくく、
途中まで遥の回想シーンと錯覚してしまいます。
映像そのものは構図も面白く美しかっただけに残念なミスでした。

後半は 遥の描写で全て台無しに

後半は、うってかわってベタベタに甘いラブストーリー展開。
展開そのものや告白シーンのクサい台詞、リアリティのないキスへの流れなどはこの際置いておくにしても、理解に苦しむのが遥の性格・言動。
化石レベルの道徳観・男女観と、場を読めない非常識な言動がミックスされた人物像は、ハッキリ言って「かわいくない」の一言につきます。

これら理解不能な行動の数々で魅力的どころか単なるアホに見えてしまいます。

映画に誘わなかった孝之に水月と慎二が説教をするところや、以前の遥の笑顔がフラッシュバックした孝之が遥に告白する展開から、
孝之が遥の魅力に気づいていず、また水月への思いもあって遥と上手くつきあえない、
というのが、これらのシーンにおいて作り手が意図した構図なのでしょうが、遥の描写が全て台無しにしていました。
魅力的だけど内気で…というなら他にいくらでも描きようがあったと思います。
作り手はいったい何がしたいのかと問いたいほどでした。

全体的に見ると オーソドックスなラブストーリー

全体的に見ると、オーソドックスなラブストーリーで、
伏線的な台詞も分かりやすい形でふんだんに盛り込まれており、
ストーリー的には今のところそれほどの期待は感じさせませんが、
前半のような「雰囲気を感じさせる演出」が今後も出ると面白くなると思います。

脚本:金巻兼一 絵コンテ:加瀬充子 演出:山田弘和 作画監督:藤沢俊幸

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2003.12.03 第2話

全話の評価 ★★★ 公式のあらすじ

つきあい出した後のある日、水月絡みでデートの待ちぼうけを食わせていた遥が事故にあう、という話。

展開が早いのは何らかの都合であるとしても、肝心なところの演出がいただけません。
「誕生日だから」と水月が孝之を引き止めてしまう一幕。
その行動自体が水月の性格に反したご都合主義ですし、
そこを募る孝之への想いであると好意的に解釈(本編では行動に至る心境の変化が説明不足)するとしても、
それ以前に水月の誕生日をスルーしているという状況がまずありえないことで、本編であれだけ友情を強調してきた4人の描写にしては不自然極まりないです。ハッキリ言って練り込み不足。

遥が事故にあったという事実が提示されるところも思慮が浅いです。
救急車→通行人の会話→待ち合わせ場所の人混み、というカット回しでは「日射病で倒れたのだろうか」くらいの予測がついてしまい、
せっかく意図した遥不在の事故現場というインパクトが半減してしまっていました。
事故の被害者は遥だと孝之が分かった瞬間に被せられるタイトルと主題歌、という演出もあざとく本末転倒。
この演出によって受け手は、より傍観者的に状況を眺めるという形になってしまい、
孝之の悔恨、水月の罪の意識というここで強調すべき感情が伝わりにくくなっていました。
これらどれを見ても意図した演出を漫然と描くだけで、演出の周辺が全く見渡せていない作り手の余裕のなさのようなものを感じました。

脚本:金巻兼一 絵コンテ:東海林真一 演出:山田弘和・松本佳久 作画監督:藤田まり子・高野杏

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2004.01.26 第4話

全話の評価 ★★★
孝之と水月が同棲を互いに決意して仲がきちんとまとまりかけた時、3年間病床で眠り続けていた遙が目を覚ましたという一報が入る、という話。
「アニメランキング」で書きましたが、頭の中だけで考えたご都合主義というか場当たり的な演出が本作では目立ちます。
今回の話では遙が目を覚ましたという電話がかかってくる一幕が象徴的。
この直前、孝之と水月は明るく食卓を囲んでいたのですが、電話の後一転して暗い部屋のシーンに。
即ち、食事を片づけて(これは普通に食事を済ませたとしてまだ許せます。)、
わざわざ食卓を片づけて、わざわざ窓を開けて、わざわざ部屋の明かりを消して落ち込んでいるわけです。

こういうの普通はスタッフ間の行き違いで済ませられるものですが、本作は徹頭徹尾こんな演出なのが困りもの。
この場面では孝之と水月が沈んでいるという表現を、ならば部屋は暗い方が良いと部分的にしか考えていないから本編のようになってしまうわけです。

他にも水月の孝之に対する微妙な意識が移り気に二転三転するところも、その意識がつながっているようには思えず、
その場の状況(話の展開)にあわせて作り手に都合良く変化しているようにしか見えないのです。

物語設定は決して悪くないのですが、このような演出ではどのキャラにも共感することができず、
あかの他人の訳の分からぬ恋愛模様を冷ややかに眺めるだけの映像になってます。

脚本:金巻兼一 絵コンテ:もりたけし 演出:宮田亮 作画監督:竹内哲也
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2004.02.05 第7話+前半総括

全話の評価 ★★★
目覚めた遙への見舞いを続けざるをえない孝之と、それが気になり心が不安定になっていく水月、という話。
孝之が元彼女である遙への見舞いという状況から、必然的に別々に動くことになる二人を平行して描いているわけですが、
両者の描き方にかなりの差を感じさせます。
孝之の方は水月・遙の両方と接するときの心情を描いていて、それぞれの狭間で苦悩する様子が伝わってくるのに対し、
水月の心情描写は乏しく、彼氏と一緒に暮らして尽くしているだけの女という存在にしか見えません。
遙のことで孝之に食ってかかる一幕などは、水月がまるでコミュニケーション不全かのような唐突な言動に見えてしまいます。

今回の話では茜の描写も唐突さによる違和感がありました。
見舞いに対し、前半は前回までと同様「ひどい人」と孝之を軽蔑していたはずの茜が、
後半突如として意味深で悲しげな表情で孝之を見ます。

「演出が場当たり的」と第4話の批評でも述べたとおり、本作はこのような演出が延々続いてきています。
ドラマ作りの観点からは明らかに失敗なのですが、あまりにもあからさま過ぎます。

「あからさまに見える失敗には、何らかの意図があるのでは?」と考えて導き出した答えは、
本作は恋愛シミュレーションゲームのテイストをアニメで構築しようとした実験的な演出を志向しているのではないかということ。

今回の話で描かれている水月の姿。
前半で悩んでいるところは、遙と孝之のことで悩んでいるのだとは伺えても、具体的に何をどう悩んでいるのかは全く描かれません。
そして先に挙げた後半の一幕。
これら全てはドラマとして描いているのではなくそれぞれが一つの記号、
即ち孝之がとっている行動の投影であり結果に過ぎないということです。

恋愛シミュレーションゲームにおいては、
ヒロイン個人の細かな心情などより主人公のことをどう思っているか、またはその変化の表現が重要な位置を占めます。
孝之がとった行動の全てが、恋愛シミュレーションゲームにおける「主人公への好感度の上下」のごとく見えないところで処理されていて、
それが結果として水月の描写として提示されているということです。茜もしかり。

そう考えると、水月や茜の行動理由が描かれず、何かにつけて唐突なことの辻褄があってきます。
また本編で現れる「姉さんの気持ちを弄ぶのはやめて下さい(茜)」や「辛いんだから。苦しいんだから(水月)」のような、
会話におけるおよそ非現実的で記号的な台詞も、ゲーム的な要素として納得できます。
そして水月たちとは対照的に孝之の心情を豊かに描いているのも、
ゲームを操作するプレイヤー視点のアニメによる構築であるからということです。

そうであると仮定しての本編は、
孝之の言動が違和感なく理解できるという点で演出意図として成功していますが、
それ以上の魅力に乏しくエンタテインメントという枠で見ると面白みに欠けるといえます。

脚本:金巻兼一 絵コンテ:東海林真一 演出:喜多幡徹 作画監督:荒木英樹
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更新:2004-02-19 作成:2004-01-17 文責:ごま(goma)
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