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ごまの「アニメ批評日記」

『住めば都のコスモス荘 すっとこ大戦ドッコイダー』

*2003.10.11 第5話「小遣い値上げでドッコイ」

ドッコイダーこと桜咲鈴雄がお目付役の小鈴に報酬の上乗せを迫る、という話。(→公式のあらすじ

阿智太郎原作のライトノベル(メディアワークス刊)のアニメ化という本作ですが、
結論から言って全編アニメ作品としての評価は及第点以下。
現在第6話まで視聴済みですが、本話数が本作の不出来を示すその象徴的な一本かと思い、ここで取り上げてみました。
パワードスーツの発注を巡って主人公サイドの玩具メーカーが軍事企業と対抗、
クライアントが差し向ける宇宙犯罪人とは互いに正体を知らぬまま一軒のアパートで共に暮らす、
というのが基本設定。目新しさはさほどでも無いですが、作り方次第で十分盛り上がれそうな設定ではあります。
そして、作画監督が原画を担当した今話数をはじめ各話、作画は丁寧な作り。
なのに完成品はギャグの寒さばかりが際立つものになっています。

その理由は、演出面()による原作・脚本から作画・演技への橋渡しができていないからだと思われます。
それが如実に表れているのは、
まず前半、朝食での小遣い値上げ交渉と、後半のアルバイトでの必殺技読み上げ特訓シーン。
どちらも早口台詞が多用されていますが映像の方はというと、
前者ではキャラがフレーム内にいない「OFF」という状態でキャラの表情の変化がなく、
しかも居間のロングショットや宇宙人がちょこまか動くだけ等、台詞との関連性を感じさせない且つ一枚絵に近いチープな映像。
後者ではロングショットの構図でちまちま動くだけの同じくチープな映像。
画面のチープさによる会話の安っぽさを演出しているつもりなのでしょうが、手抜きな印象の方を強く受けます。
せめて鈴雄・小鈴による早口台詞の演技に面白さがでていれば救いもあるのですが、早口台詞では棒読みの域を出ていません。

夜の公園で鈴雄が梅木パパと会話した直後のギャグ演出は更にひどいです。
ここでは「お互いへこたれず、頑張っていこう」「乾杯!」のやりとりの後、
コスモス荘に走っていく鈴雄、小鈴に再度値上げ交渉をする鈴雄と続きます。
交渉の際の「というわけで」という台詞から、この一連の流れには、
小遣いが安くても前向きな姿勢でいることを決意したと思いきや、
小遣い値上げ交渉を頑張るだけの不毛な行動に出たことで受け手を笑わせるという演出が込められています。
しかし、使い回しの「鈴雄がコスモス荘に走る」映像がそのような演出を吹き飛ばしてしまい、
単に脈絡なく最初に使ったのと同じく値上げ交渉に走ってるだけと思わせてしまいます。
またこの使い回しの映像が、公園のシーンを受けた夜の時間ではなく日中になっていたことも公園のシーンとのつながりを断ち切っていました。

使い回しやチープな映像が欠点として際立っている一方で、 「スト貫徹」を「酢・戸・カンペ・チュ」と判じ物(駄洒落)にしているところは、 速すぎて意味を理解する間もなく次のシーンに続いてしまい、置いてけぼりを食わすのも演出として理解に苦しみます。

欠点が際立つ作画ですが、作画そのものは決して悪くなく、むしろ丁寧で好印象です。
しかし何より演出面とのつながりがちぐはぐで楽しめないのは可哀相な程。
魚眼レンズ風の構図の多用や、路上販売でのズームアウトなど、
とにかくギャグ・コメディとして意味をなしてない演出のために作画スタッフがこき使われてる印象です。

楽しめそうな世界観と筋立て、頑張ってる作画スタッフ、まとまりのない演出面、
とシリーズ全体がこのような構図になっていて楽しめそうで楽しめない勿体ない作品というのが現時点での評価です。
救いは、ヒヤシンスやDr.マロンフラワーら中堅ベテラン声優の演技が楽しめる要素であること。
今話数でも、中華料理屋に入る前と後のヒヤシンスの演じ分けや「桔梗屋」ばりのマロンフラワーの高笑いが絶品でした。

あと今回、路上販売に引っかかるサラリーマンの妄想が映像としてキッチリ具現化されていたところは楽しめました。
先の値上げ交渉シーンもこんな感じで演出すれば面白くなったと思います。

)受け手としては脚本・絵コンテ・演出のどれに原因が存在するのか知る由もないし、
犯人探しが本意というわけでもないのでこのように表記した。

脚本:佐藤和治 絵コンテ・演出:井之川慎太郎 作画監督:東出太

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2003.10.30第7話「栗華の夢でドッコイ」

全話の評価★★★ 公式のあらすじ

コスモス荘の住人で夏祭りに行こうとしている中、自分も一緒に行きたいと願う栗華が体験した摩訶不思議な世界、という話。

映像が実に素晴らしいです。
鈴雄達住人それぞれの幼少の時代を栗華が体験しているという状況における、不思議でいてノスタルジックな世界という表現ができていました。
動と静のメリハリも良く、全体的にスローな時間の流れを美しい作画でしっとりと見せる一方、
街頭で栗華が変身して戦うシーンの駆け足からキックへの流れは、動きで楽しませるアニメ映像になっていました。
栗華が瑠璃を追いかけていって路地を曲がると、栗華の視点にパッと切り替わって風景が変わる表現もテンポよく決まっていて面白かったです。

しかし今回も素晴らしかったのは作画面のみでした。
博士の実験を引き金に、夢うつつの世界を漂流、夢で見た約束の浴衣が届くというオチ、
と一応の大筋は話っぽくなっているのですが、
肝心の夢うつつの一連のシーンに一本通る筋がなく、要は夢の聞かせ語りをされているだけの展開。
以前もどこかで書きましたが「他人の夢の聞かされ」は根本的に面白くないもので、
いくら美麗な映像といえど、それだけで長時間引っ張るのは無理があったと思います。
夢の不思議感を重視した意図によるものなのかもしれませんが、
徐々に謎が解き明かされるなど何か一本筋を引いて受け手の興味を引いた方が、
却って夢の世界の栗華に感情移入でき、動きのあるシーンもワクワク楽しめたと思います。

脚本:佐藤和治 絵コンテ・演出:笹島啓一 作画監督:小笠原篤

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更新:2003-11-10 作成:2003-10-25 文責:ごま(goma)
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